【収録裏話・番外編】没頭すると不安が消える

先日、初めてSUPに挑戦した。SUPとはStand Up Paddleboardの略で、簡単にいうと、サーフボードのような上に立ちパドルを漕いで進むマリンスポーツである。数年前ハワイで、海面をボードの上に「立って」優雅に移動する人を見てから興味を持っていた。挑戦したのは、秋に差し掛かった沖縄……

先日、初めてSUPに挑戦した。SUPとはStand Up Paddleboardの略で、簡単にいうと、サーフボードのような上に立ちパドルを漕いで進むマリンスポーツである。数年前ハワイで、海面をボードの上に「立って」優雅に移動する人を見てから興味を持っていた。

挑戦したのは、秋に差し掛かった沖縄だった。体験教室の内容を聞いてみると、初心者でも楽しめそうな予感がしたので申し込むことにした。

とは言え、一つだけ心配事があった。それは寒さである。ビーチでのんびりするにはいい季節だが、海に入るにはやや肌寒い。海水は冷たくはないが「えいや!」と気合を入れないと海に入れない。根性なしの中年は、そんな不安をスタッフの人に率直に聞いてみた。

「海に落ちたら寒くないですか?」
すると、気の利いた言葉であしらわれた。
「大丈夫です! 落ちたらそれどころじゃありませんから!」と。

そうか!この根拠のわからない魔法の言葉をもらうと、がぜん楽しみになってきた。何事も初めてやることは、ワクワクとドキドキがある。それが間近に迫ってくると、「早くやりたい!」と気持ちが荒ぶって来る。

リゾートのインストラクターの方は、普段から遊び半分の観光客を相手にしているだけあって、基本の基本だけ教えてくれて、あとはこちらを楽しませようとしてくれる。ボードの説明、パドルの簡単な使い方をレクチャーしてくれると、さっそく実践となる。

海は風もなく穏やかだ。最初はボードの上に膝で立ってパドルを漕いで沖から出る。ここまではなんの問題はない。いい感じ!
「では、立ってみましょう!」とインスタラクター。
コツは、膝立ちの状態から一気に立つこと。そして足元を見ないで、視線を進行方向に向けること。実際に実演してもらってからやってみると、意外と簡単に立てた。「おおー、できるじゃん!」と思いパドルを漕ごうとした矢先、バランスを崩し秒殺で海に落ちた。それも見事に上半身から落下したので、頭から海水に浸かった。

こんなに早く落ちるとは!そんな自分を笑ってしまう。そして一度落ちると、これまでの不安が一掃された。「落ちたらどうしよう」は杞憂であり、たいしたことではなかった。むしろ、「水面に落ちる」という非日常が楽しかった。

ここでようやくスタッフの方が言ってくれた「落ちたらそれどころじゃありませんから!」の意味がわかった。SUPに乗ることに夢中になっていたから、ちょっと寒いと感じるほうに神経が鈍感になっていたのだ。人は何かに没頭すると、他のことへの注意力が薄れる。

これは日常生活にもよくある。仕事に乗らない時は、周囲の雑音や室内の温度が気になるものだが、切羽詰まってカフェで仕事をしていると、隣の人の話し声も聞こえないし、注文した珈琲も冷めている。面白い本の世界に没頭していると、いま自分がどこにいるのかさえわからなくなる感覚がある。音声コンテンツも、聞いている人が目から飛び込んでくる情報さえ気にならなくなる面白さを提供できれば理想的だ。

その後、30分のSUP教室では2、3回、海に落ちたが、久しぶりに新しいことに夢中で取り組む楽しさを味わった。上手くなったと言えないが、どうしたら落ちるかがわかると、不安は少なくなるし、これから試してみようと思うことが増えていく。これは没頭の入り口かもしれない。

そう言えば、VOOXでも井上一鷹さんが「夢中は集中を超える」というお話をされていた。休暇で楽しんだひと時が、見事に仕事の気づきへとつながった。

2021/11/1 VOOX編集長 岩佐文夫

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