【書き起こし】樋口あゆみさん「今の組織は何を考えているのか」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「組織の定義とは」を書き起こしで紹介。ビジネスを進める上での基盤となる「組織」とは何かについて、社会学者の樋口あゆみさんが解説します。

(オープニングジングル)

樋口:

皆さんはじめまして、樋口あゆみです。組織を社会学的な視点から研究しています。今回よりお送りする「今、組織とは何かを考える」では、今変化する組織という概念を学び直し、企業を含むすべての組織との心地いい付き合い方を考えます。リモート収録でお送りしているのでお聞き苦しい点があるかもしれません。ご了承ください。

初回なので私の自己紹介からまいります。研究者として社会学的な視点から組織について研究をしておりまして、今は福岡大学商学部経営学科の講師として職を奉じております。スタジオジブリのアニメーションなど、そういったコンテンツが作られる、制作に関わる話を聞くのが好きで、スタジオジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんのラジオなども聞いていますが、そうした趣味が高じて組織研究をしています。

まずはその組織とは何かというところから考えていきたいと思います。2020年から全国的にウーバーイーツの配達をする方を見かけることが増えましたけれども、このウーバーイーツは、自分の空き時間に働けるという形で、アプリを通じて様々な人が配達という職をやっているという意味では、新しい働き方に見えますし、新しい働き方だと言われているとも思います。それでは、本当にこれはどこに新規性があるのか、あるいは従来とどう違うのかということもこのコンテンツでは考えていきたいと思っています。

そうした組織というのは、実際はどういうもので、どういう活動をしているのかということを考える「組織論」という学問領域があります。どういう体型なのかと言いますと、例えば近代的な組織とは一体どういうものなのか、どういうふうに人々が一緒に働く、「協働する」と言ったりもしますが、どういうふうに人が協働しているのかということについて考えている分野です。


組織の定義

ディシプリン(discipline)、考え方の枠組みとしては、経済学や経営学、あるいは社会学、心理学が源泉としてある国際的な領域です。そうした組織論の中では、組織というのは様々な定義がありますが、どういうふうに定義されているかということを簡単にご紹介します。最も広い定義では、バーナードという経営学者が定めた定義があります。これは「2人以上の人々によってに担われた、意識的に調整された活動や主力のシステム」というふうに定義をされています。まあ、こういうふうに言われると、広すぎて、「何が何だか」というところもあるかと思いますが、徐々にこれはどういった意味を持っているのかという話もできていけるかなと思っています。

あるいは、皆さんのもっと身近な組織に対する、あるいは企業に対するイメージに近いような、近代組織の特徴について明らかにしたのは、 20世紀を代表する社会学者の1人であるマックス・ウェーバー​​の「支配の類型」がその典型のひとつです。その中で大雑把にまとめてしまうと3つあります。1つ目が階層性ですね。階層があること。2つ目に役職による権限関係があるということです。3つ目は脱人格化を図るというところです。これは組織の中の人が入れ替わっても問題なく組織の業務を遂行できるようなことですけれども、もっともこのウェーバーの特徴の抽出というのは、皆さんの日常に近い様子かなと思っています。つまり上司・部下がいるっていうことだったりとか、あるいは何か新しいことをやろうと思っても、それはルール上できませんと言われてしまったりとか、そうしたことは日常にあるかなと思うんですが、そうした特徴を抽出したものです。

なので、私たちの多くは企業に限らず、何らかの組織に属していますし、自分たちの組織についてよくわかっていると感じているかもしれません。しかしよくよく考えてみると、組織には曖昧なことっていうのは結構多くあります。例えばウーバーイーツの配達人の方々は、果たしてウーバーイーツの組織の一員と言えるんだろうかというようなことを考え始めると、なかなかウーバーイーツの中で、例えばプログラミングをしているとか、そういった中核的な業務をやってる人は確かにそうかもしれないと思えるんですけれども、配達の人はサービスに登録して、自分の好きな時だけスポット的に働くということをやっているわけで、その人も同じ組織の一員ですよと言われると、もしかしたら疑問符が頭に浮かぶ人もいるかもしれません。そういう意味では組織についてよくよく考えていくと、みなさんが思っているような、経営者+正社員みたいな形で、確固とした境界があるようなものではなくて、より広いような概念であるというふうにも言えるかなと思います。


組織と市場の違い

とは言え、それだけではなかなか組織っていうのはどういうものなのか、というのがわかりにくいと思うので、じゃあ何と区別されるかという話をしてみますと、もう少しわかりやすいかもしれません。例えば、組織と市場ではどう違うのかという区別ですね。簡単に言いますと次の2点の意味で、組織と市場っていうのは違うと言えます。一つ目が調整の仕方です。これは市場の場合は、価格を媒介にして調整を使っていますが、組織の場合は、個々人がどのように振る舞うか、あるいはどのような役割を与えられているかによって振る舞い方が変わってくるという違いがあります。2点目が、市場が利害を通じてそうした調整をしたりとか、関係性を作ったりするのに対して、組織の場合は、その個々の組織なりの合理性をもって調整を図っている、あるいは関係性を作っていると言えるかなと思います。

そういう意味では、まあ経済学との比較にもなりますけれども、市場取引をしないでなぜ組織を作るのかといった場合には、組織の中で何がしかをやった方が結果的には安くつくからだ、というような説明がされることもあります。こうした組織とは何かという思考は、実はほとんどの場合において近代的な組織とは何かという問いとつながっています。というのも、この学問が始まったのも官僚制の研究とかも言われますけれども、どうしてそんなに巨大な組織を作って、皆んながうまく働けるようになったのか、あるいはフォードの自動車の生産が、どうやったらうまくいくかとか、そういった試みとか思考だとか、考え方と一緒になって育ってきたというような側面があります。

ですので、このコンテンツでは、組織というのは意外に複雑で多様だという話はするものの、いったん近代的な組織の中での多様性を考えるという限定を付けて考えていきたいかなと思っています。それでは次回から、色々な角度で組織について考えていきます。ではまたお会いしましょう。ここまでのお相手は樋口あゆみでした。

(以上書き起こし終了)

「今の組織は何を考えているのか」全6話 60min


1. 組織の定義とは
2. 誰が組織の一員なのか
3. 組織と個人はどのような関係か
4.そもそも組織とは幻想なのか
5.組織の目的とは
6. 組織の概念はどう変わるか

樋口あゆみ
福岡大学商学部経営学科講師。東京大学大学院総合文化研究科修士課程修了、同博士課程在籍。英治出版、モバイルコンテンツ企業に勤務した後、現職。専門は社会学(コミュニケーション論、組織論)。

早速VOOXを聴いてみよう!

VOOX Apple App StoreDownload VOOX on Google Play