【書き起こし】高橋史弥さん「中国巨大企業"BATH"の正体」を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「なぜBATHを知る必要があるのか」を書き起こしで紹介。ハフポスト日本版で中国を担当する高橋史弥さんが、中国社会のデジタル化を担ってきたこの4社”BATH”が展開している中核事業を改めて整理しつつ、直近の動向も紐解きなから、中国のネットビジネスを考察します。

(オープニングジングル)
高橋:

皆さんはじめましてハフポスト日本版記者の高橋史弥です。よろしくお願いいたします。このコースでは中国ビジネス、特に「中国巨大企業"BATH"の正体」をテーマにお伝えします。簡単に自己紹介をしますと、上海の復旦大学という国立大学を卒業させていただいた後、NHKで記者をしておりました。2019年1月からハフポスト日本版で中国ニュースを担当しています。

中国ニュースといっても政治、社会、経済など幅広く見ているんですけれども、ここ数年の中国ニュースに欠かせないのはやっぱりIT分野での発展、そして生活の変化です。中国は何年か前の日本だという見方が、過去にはあったと思います。そしてその中国はいつか日本を追い越すとも言われてきました。ですが現実に目をやると、なんというか日本を追い越すというよりも、むしろ日本では実現しなかった全く別の未来へ歩みを進めているようにも見えます。その根幹を支えるのが中国のメガテックやファーウェイのような巨大企業、そしてそこから投資を受けイノベーションを起こす振興企業たちです。このコースでは、その中心にあるB・A・T・H、"BATH"(バス)と呼ばれる4つの企業を中心に解説して行きます。今回は初回ということで、こうした巨大企業たちが中国社会でどのように存在感を発揮しているか、総論的に見て行きたいと思います。


"BATH"とは何か?


まず"BATH"とは何か。よくアメリカのGAFA、グーグル(Google)、アップル(Apple)、フェイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)と比較されるような、中国を代表する企業たちです。Bは検索最王手Baidu(百度、バイドゥ)​​、AはEC、簡単に言うとネット通販のAlibaba(阿里巴巴集団、アリババ)、Tは10億人以上が利用するSNSを作り上げたTencent(騰訊、テンセント)。この3つでB・A・T、”BAT”(バット)でしたが、ここに国際ニュースの主役の1つとも言えるH、HUAWEI(華為技術、ファーウェイ)​​が加わりました。ファーウェイの代わりに別の企業の頭文字を入れるケースがあるんですけど、中国のシンクタンクが昨年秋に発表した調査結果によると、この4社の時価総額は日本円にして175兆8,000億円ほど。2021年度の日本の国としての当初予算は100兆円余りですから、それをはるかに上回ります。彼らが打ち出すサービスが、中国の日常生活を日本とは大幅に違うものに変えたと言っても過言ではないと思います。

1番最初に思いつくのはキャッシュレスではないでしょうか。これはアリババ、そしてテンセントの2社がそれぞれアリペイ(支付宝)とウィーチャットペイ(微信支付)というキャッシュレス決済機能を打ち出し、シェアをほぼ独占しています。道端の小さな飲食店はもちろん、公共交通機関、お年玉などの送金まで可能で、このキャッシュレスサービスに残高をチャージしておけば、通販サイトで欲しい物を見つけた時、フードデリバリーを頼みたい時、あるいはタクシーを呼びたい時など、生活のほぼ全てのシーンで応用がきくようになってますね。

第4回のテンセントのお話でも詳しく説明したいと思いますが、スーパーアプリという概念も生まれました。テンセントの代名詞、SNSのウィーチャット(微信)は、まあ日本で言うところのLINEに近いチャットアプリですが、1つのアプリで日常生活のほとんどをカバーできる姿になっています。むしろ今は本家LINEがヤフーとの経営統合を経て、日本盤スーパーアプリを目指して追随するという状況になっています。


世界を驚かせるスピードと技術力


これらの企業が底力を見せたのは2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大したときです。検索最大手のB、バイドゥは、今AI開発に熱心ですが、その一環として自動運転技術を提供。小型の無人車両が地域の消毒作業や物流を助けたということです。また一部の地域では、AIが自動で電話を掛けて「熱が出ていませんか?」など、自動音声で聞き取りを行ったということです。これは複数のIT企業に加えて、音声認識AI最大手のiFLYTEK(科大讯飞)なども協力しました。他にも、アリババは創業者ジャック・マーの肝いりで、世界中の医者が新型コロナの診断とか、あるいは看護の方法についてオンラインで中国のお医者さんとチャットで相談できるプラットフォームを作り上げました。もちろん言葉の壁はあると思うんですけども、そこもアリババが抱える研究開発機関DAMO(達磨院)が作り上げたAIが通訳を担ってくれるというものです。

またコロナテックといえば、中国の公共インフラとなった健康コードがあげられると思います。これは例えば信号機のように緑、黄色、赤の3色で、自分の感染リスクをスマホの画面に示すもので、 例えばオフィスビルとかに立ち入る時に、私は濃厚接触者ではありませんよとか、そういったことを示すために提示を求められるようになりました。これは初期段階でアリババ傘下のAnt (蚂蚁)だったり、あるいはテンセントがそれぞれ開発に携わりました。これ、どうやって自分が感染リスクが有るか無いか、あるいはどの程度かって示すかの判定には、自分自身で行動履歴を入力したりとか、地下鉄などにQRコードが張ってあって読み込んだりといった自己申告のパターンもあるんですけれども、それに加えてスマホの位置情報とか、飛行機あるいは高速鉄道の乗車履歴など、当局が保有している情報を掛け合わせたということです。

中国のみならず世界を驚かせたのは、わずか10日間で完成した武漢市のコロナ対応病院「火神山医院」です。火の神様の山と書い火神山医院ですね。中国らしい人海戦術というか、24時間ぶっ続けの工事で完成しましたが、この中でファーウェイは社員200人を投入して、この病院に5G通信を整備しました。5Gの設置作業にかかったのは、わずか3日ということです。

まあ、このようにですね、国や社会への貢献というのは、同時に多大なビジネスチャンスとなるんだなということを感じさせられます。コロナになって初めてZOOMとか、あるいはTeamsみたいなウェブ会議アプリに触れたという方も日本では多いのではないでしょうか。中国でもその傾向は同じで、厳しい外出制限が敷かれた結果、数億を超えるオフィスワーカーたちがリモートワークになだれ込んだと言われています。このチャンスを逃してはいけないと言うことで、アリババは釘釘と書くんですけどディンディン、テンセントはウィーチャットワーク、ティックトックで有名なバイトダンスはLark、中国名は飞书(フェイシュー)っていうんですけども、ファーウェイまでもですねWeLinkという製品を打ち出して、この市場に参入してきました。勢い余ってとは言いませんけれども、一部は日本にも参入していますね。こうした動きを見ると、まあさすがに何て言うか、ビジネスチャンスに敏感だなあっていう感想を持つんですけれども、彼らが動く動機というのはそれだけではないと思います。


市場と共産党と


ご存知中国は共産党一党独裁の国ですから、法律やルールよりも共産党の意向というのはとにかく大事です。党がどの方向を向いて何をしたがっているのか、何をすれば党が喜んでくれる、イコール自分たちがある日突然吊るし上げられるようなリスクを減らせるのか、とにかくそれが重要だと言わざるを得ません。要は市場の動きだけを見ているわけでは決してないと言うことなんですね。

例えば新型コロナ以外では、共産党は2020年、全国民の貧困脱却を掲げました。 実は他にもう一つ目標をあげてて、国民のGDPを2010年比で2倍にするっていう目標もあったんですけれども、これは新型コロナの影響で経済成長が予想よりも見込めなくなり、触れられなくなりました。一方、この貧困脱却という目標は消えずに残ったわけです。新型コーナーのダメージは確かにあったけども、これは絶対マストで達成しようというふうになったわけです。ですから、どの企業もチャンスがあれば、うちは政府の向いてる方向通り、脱貧困にめちゃめちゃ協力していますという姿勢を見せるわけですね。特に印象強いのがアリババです。中国トップクラスの貧しい地域とされた貴州省に大規模なデータセンターを設置する。他にも収入の低い農村向けにEC機能、ネット通販を提供して農作物を中国全土に売れるようにするといった運動も進めています。といっても農家の人たちがいきなりネットで物を売ってよって言っても難しい人もいるでしょうから、代わりにネットに出店してあげたりとか、使いかたを教えてあげたりといったステーションとかも幅広く設置されています。

駆け足でお話ししてきたと思うんですけれども、このようにですね、彼らメガテック企業たちの動きを見れば、生活者のトレンド、そしてどのように共産党、そして共産党に指導される中国政府が動いていて、それに応えようとしているか、ということがおぼろげながら見えてくると思います。次回からは各企業ごとに詳しく分析していければと思います。ではまたお会いしましょう、高橋史弥でした。
(以上書き起こし終了)

「中国巨大企業"BATH"の正体」を語る
全6話 60min
1. なぜBATHを知る必要があるのか
2. バイドゥが描く起死回生のシナリオ
3. アリババ「独身の日」を変えた巨大企業
4. テンセント スーパーアプリとエコシステム
5. ファーウェイ 手足を縛られた巨人
6. BATHの次にやってくるのは?

高橋史弥
ハフポスト日本版の記者。上海の復旦大を卒業後、NHK記者を経て現職。 中国全般、多文化共生、地方創生、スポーツ(特に球技)を専門とする。

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