【書き起こし】 入山章栄さん「漫画と経営学」を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第一話の『キングダム』で語る“センスメイキング理論」を完全書き起こしで紹介。『世界標準の経営理論』の著者で、マンガが大好きな経営学者の入山章栄が、大ヒットマンガから選んだシーンを事例に経営学の理論を解説します。

(オープニングジングル)

入山:

皆さんはじめまして早稲田大学ビジネススクール教授の入山章栄です。このコンテンツは『漫画と経営学』というタイトルで、大ヒット漫画のどこかのシーンを切り取って、僕は経営学者という仕事をしていますので、経営学の理論でその大ヒット漫画のワンシーンを解説するということで、一応建付けとしてはですね、このワンシーンがしびれるんだよ! みたいなところを選びながら、それが実は、経営学で見るとすごく意味があって、もしかしたらビジネスをやっている皆さんにも、仕事をこれから考えるきっかけになるかもしれない、というような思いで始めた番組ということなんですね。

というわけで、じゃあさっそく初回に僕が取り上げる漫画をご紹介したいと思うんですが、初回の漫画は……『キングダム』ですね。今回のテーマは『キングダム』で語る「センスメイキング理論」ということで、なんかセンスメイキングと言われても、なんだそれっていうこともあると思うんですが、まず先に『キングダム』という漫画について解説しようと思います。これ読んだことない方もね、これだけ人気ある漫画ですけどいらっしゃるかもしれないので簡単に説明すると、舞台は紀元前3世紀、いわゆる春秋戦国時代っていう戦国時代ですね。中国にもそういう戦国時代があって、その時代の古代中国で、そしてまさに群雄割拠でいろんな国が天下を統一しようとしていたわけですけど、その中で秦という国があるわけですね。そしてその秦の、後に「秦の始皇帝」となる政という若い皇帝がいるんですが、あの秦の王様ですね。彼がだんだん成長していきながら、中華を統一していくというストーリーで、ただ本当の主人公は政ではなくて、政の下でやがて大将軍になっていく、ちょっとややこしいですけど信、こっちのシンは信じるのシンなんですね。国のシンの方がなんか難しい旗みたいな字の秦なんですけど。秦の国の武将の信という武将が成長して行くことを描いていく壮大なストーリーだということなんですね。


センスメイキング理論における、一番やってはいけないこととは?

そしてその中で今日僕が取り上げたいシーンというのが、これ全59巻、コミックだと今の時点で出てるんですが、比較的早い第3巻に出てくるシーンでして、ここで何が起きているかというと、物語の序盤なんで、将来始皇帝になるはずの政と、それから主人公の始皇帝に仕える武将の信、この2人が山の民っていうのに捕まっちゃうんですよね。で捕まって、ただお互いまだ、信も政もお互いどういう人間がよくわかってないんですよ。わかってないんだけどコンビを組んで戦ってたら山の民に捕まっちゃったと。そこで話をしている時に突如ですよ、急に政が、始皇帝になる人が「俺が目指していることは、中華の全国境の排除」と言い出すわけですよ。「国境をなくしたい」と。こいつ何言ってんの、みたいな感じなわけですよね、信から見たら。だけど最後「俺は中華を統一する最初の王になる」って言うんですよね。

実は、この山の民に捕まったのもわざとで、その協力を得るために山の民に会いに来たんだというわけです。つまり「中華を統一する歴史上最初の王様になる」っていうふうに宣言するわけですね。まあ、これびっくりするわけです。なぜかというと、当時の中国では、先ほどみんなが覇を競って闘ってたと言いましたけど、とはいえ、全中華を統一するなんていう発想の人は1人もいないんですよ。500年くらいずーっと分裂したままなんですね。実はこのあと何が起きていくかというと、だんだんその政が、自分はこの中華を統一するんだというビジョンを掲げていくわけですけど、そこに信がだんだん腹落ちしてきちゃうんですよね。腹落ちして、やがて『キングダム』のストーリーが続くにつれて、自分はその中華を統一する政を助けるために大将軍になるんだ、っていうふうになってるわけです。

この辺が経営学でいうと「センスメイキング理論」にすごくかなっているかなというふうに思っていまして、これどういうことかというと「センスメイキング理論」というのは、僕は実は今、日本のビジネスを考える上でも最も重要な経営理論の1つだと思ってるんですね。なぜかというと、それは「センスメイキング」っていうどういう意味があるかというと、「腹落ち」という意味があるんです。つまり、「センスメイキング」って「腹落ちの理論」なんですね。つまりこれからの時代って、特にコロナを経験して日本も世界もそうですけど、特にこれからの時代って先が見えないわけですよね。ものすごく不確実性が高いと。しかもいろんなデジタル技術が入ってどんどん変化が激しいと。こういう先が見えない時代に、センスメイキング理論によると一番やっちゃいけないことがあって、なんだと思います? 一番やっちゃいけないこと。これはですね「正確な分析に基づいた将来予測」なんです。

なぜかというと、正確な分析に基づいて将来を予測しても、変化が激しいんだから絶対当たらないんですよ。だけどね、日本の大手企業は正確な分析による将来予測が大好きなんですよ。正確な分析による将来予測大好きなんですよ。「正確な分析がやったの?」とかね、「根拠みして見て?」なんて、分かんないんですよ。分かんないんだけど、大手の会社に勤めている方って頭が良いんで、部長に押しつけられてどうするかというと、適当な数字を作ってるわけですね。適当な数字を、数字ナメナメしていい感じの数字を作るんですよ。それが上手なんですね。だからだいたいいい感じで、急に3年目に伸びる中堅とかが出てくるわけですね。

不確実性が高い時代に伸びている組織とは?

それはそれで構わないんだけど、別にその正確な分析はダメって言ってるわけじゃないんですが、分かんないでこれからの時代。大事なのは、そうじゃなくてもう10年後、20年後、30年後の未来にむかって、我々の会社はどういう会社で、どういう大きな世界を作っていきたいのかという、大きないわゆるビジョンで、そしてそのビジョンを腹落ちさせることをなわけですよね。自分の会社、自分の組織の存在意義、自分たちが20年後、30年後、50年後でも構わないんですけど、そこで作りたい世界を掲げて、それに腹落ちしないと仲間は集まらないし、変化が激しい時代にはそこで方向感がぶれちゃうんですよね、正確性だけに頼っていると。だからこそ、実は戦国時代もめちゃめちゃ不確実性が高いじゃないですか。だから、こういう時代にこのビジョンを掲げるというのはすごく重要で、そして腹落ちした仲間を引き込んでいくんですよね。そういう意味でいくと、実は今、日本でも世界でも、革新的なことができて、この不確実性が高い時代に伸びている会社、いわゆるイノベーションが起こせている会社っていうのは、ほぼ全部リーダーがこのセンスメイキング、腹落ちの達人なんですよね。

例えば1番わかりやすいのがイーロン・マスクですよね。イーロン・マスクってあのはっきり言ってめちゃめちゃじゃないですか(笑)。僕もイーロン・マスクの下で働いてた人は知ってて、話聞くんですけど、話だけ聞くと相当凄いわけですよ。やってることを、まあちょっと言い方は失礼かもしれませんけど、ちょっとめちゃくちゃで、だけど、やっぱりそのイーロン・マスクについていきたいっていう人がいるわけですね。あれだけいるから今、世界の自動車市場、あるいはロケット市場を変えようとして、皆さんご存知のように例えばスペースXで言ったら、イーロン・マスクは人類を救いたいと思ってるわけですよね。でも人類を救うには、今のこの地球ではダメだから人類を火星に連れて行きたいっていうわけです。めちゃくちゃじゃないですか。だけど、その壮大なビジョンにやっぱり共感する人たちがいるから、それで一緒にじゃあ、そういう火星に人類を連れてって人類を救おうってなってるわけですよ。これ実は、2000年以上前に始皇帝にその後なった政がやっていることが基本一緒なわけですね。

なんで、いつの時代も人を腹落ちさせるということが、リーダー、ビジネスリーダーにとっての最重要要件で、そのためにはどれだけ自分が心から大きなビジョンを持って、それを自分が信じて、そして周りに信じさせて巻き込んでいくかということが重要で、今の時代ならそれはイーロン・マスクであり、スティーブ・ジョブズであり、日本なら例えばもしかしたら孫正義さんかもしれませんが、それは2000年以上前の春秋戦国時代は、のちに人類史上初めて中華を統一する始皇帝が言っていたことで、本当は史実かは分かんないですけどね。でも、その漫画の『キングダム』の中では、それを第3巻の第21話、40ページで語っていると。「俺は中華を統一する最初の王になる」ということで、これがまさにセンスメイキングであるということですね。ぜひ皆さんも、これからの変化の激しい時代に、どうやって人を腹落ちさせていくのか、そのためのビジョンを持って人を腹落ちさせていくのか、あるいはどうやってその自分が腹落ちできるビジョンを掲げるリーダーを見つけていくのか、ということを考えていただきたい。これは2000年前から今まで、人類のが組織を束ねていく上で、常に重要なポイントだと言うことですね。

というわけで、今回は大ヒット漫画『キングダム』の主人公の1人の始皇帝になる政を例に出して、センスメイキング理論を紹介してきました。漫画と経営学。次回も引き続きこの『キングダム』を使いまして、この『キングダム』のとあシーンで経営理論を語って行こうと思います。というわけで、次回の配信もどうぞお楽しみに。

(以上、書き起こし終了)


「漫画と経営学」全6話 60min

1.『キングダム』で語る”センスメイキング理論"

2. 『キングダム』で語る“トランスフォーメーショナル・リーダーシップ"

3.『進撃の巨人』で語る“社会学ベースの制度理論”

4. 『進撃の巨人』で語る“組織の知識創造理論”

5. 『HUNTER×HUNTER』で語る“シェアード・リーダーシップ”

6. 『HUNTER×HUNTER』で語る“経営理論の組み立て方”

入山章栄

慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で主に自動車メーカーや国内外政府機関へのコンサルティング業務に従事した後、米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授、早稲田大学ビジネススクール教授。

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