【書き起こし】 矢野和男さん 『予測不能の時代』を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第一話「予測不能の時代の4つの原則」を完全書き起こしで紹介。データ解析によるハピネス研究の第一人者、矢野和男さんが、組織や人の幸せとは何かを掘り下げます。

(オープニングジングル)

矢野:

初めまして、ハピネスプラネットCEOの矢野和男と申します。今回お送りする「『予測不能の時代』を語る」ではですね、これまで我々が1000万日を超える大量のデータから、いかに人を、組織を、そしてその幸せを、科学的なデータに基づいて作っていくかということについて、ぜひお話したいと思います。私は2021年5月に『予測不能の時代: データが明かす新たな生き方、企業、そして幸せ』という本を出版させていただきました。このシリーズでは、この本に沿ってお話したいと思います。

私の自己紹介から、最初は始めたいと思います。私は東京の中央線という西側に伸びている電車の国分寺というところに日立の中央研究所というのがありまして、1984年にそこに入社しました。日本はまさにイケイケな時代で、それから約20年、半導体の研究開発をやってきまして、日本は全世界のシェアの50%以上を半導体で持っていた時代。先輩達の肩の上に立って、非常に賑やかな、大変活況を呈していた業界の中で、グローバルに楽しく仕事やっていたんですが、今から17年前ぐらいに、日立が半導体の事業を辞めるということになりまして、20年培ってきた人脈とかスキルとかそういうのを一遍リセットして、新しいこと始めなきゃいけないと。

こんなピンチになりまして、同じような境遇の仲間とですね、これから何やろうかなというような事を夜中まで議論しましたら、これからはコンピューターはまだまだ発展しているだろうと。おそらくコンピューターの機能ってのは、単なる計算する機械からもっともっと違っていって、もっと小さく、もっと社会の隅々の中に入って行くだろう。そして、そういうコンピューターでおそらくデータを取るということは、大変重要なファンクションになるんじゃないかと。まあ、こんなふうに妄想しました。その当時、まだビッグデータやAIなんていうのは、言葉はありましたけれども、誰も良い技術だと思ってない、悪い技術の代表のように言われてた時代です。

まあそんなことで、やむを得ずデータを集め、これを活用しようという研究を今から17年前ぐらいにスタートしました。結果として後から見ると、これは大変良かったということになります。以来この17年ぐらい試行錯誤、なんとかデータを活用できるか、どうやったらできるか、こんなことをやってきた者です。まあ、その過程でですね、いろんなことがわかってきたので、そこを6回にわたって皆さんに共有させて頂ければというふうに思います。


「未来は予測不能」を真正面から受け止める

私、1番大事だと思うのは、今この変化っていうのをどう捉えるかということなんです。これは、まさに予測不能の時代っていう事の中心テーマとして取り上げたものになります。なぜかって言いますと、ドラッカーという人がもう50年近く前に言ってるんですが、要するに未来というのは我々が知っていることは2つしかないよ、「未来はそもそも知り得ないし」「我々が知っているものとも予測するものとも違うよ」と。こういうことを本の中でずばりと言ってます。まあドラッカーは経営学の最も有名な人の1人だし、その中の1番有名な本の1つにそういうことが書いてあるんで、じゃあ、みんなそういう未来は予測不能だということを前提に、企業や政府やいろんな組織のマネジメントをやってるかっていうと、現実を見ると全くそんなことない……というのは私の社会人になってからの37年の人生で深く認識していることであります。どういうことかと言うと、基本的に未来っていうのは、確かに変化するんだろうけども、ある程度は計画可能だし、計画すべきだし、予測して計画をして、まあ多少の修正はあるにしても、そのことをちゃんと守るっていうこと。計画して予測したことをきちっと守っていくということが良いことであって、こういうことを前提に予算制度ですとか、PDCAですとか実践されているわけです。

ところがですね、先程のドラッカーの言葉にありますように、未来が予測不能だということを前提にすると、今まで良かったと思ってたことが、非常にネガティブなところが見えてくるということなわけです。例えば、まさにPDCAや会社の中のルール、こういうものが、もちろんプランやルールがない、全くそういうことを無手勝流で何もなしに勝手にやってくれっていうような状態よりは、過去に起きた事故だとか、不具合だとか、そういうことを繰り返さないために、計画をちゃんと作りなさいですとか、ルールをちゃんと守りなさいってことに全く意味がないとはもちろん言いません。しかし一方で、もちろん神様じゃない人間がある時期に、限られたその時の状況を持って、こういうルールがあった方がいい、こういう計画を立てた方がいいと決めたことが、状況がどんどん変わる中で本当に正しいのか。我々がやんなきゃいけないのは、むしろ状況に合わせて適用する条件が変わったら、やり方変える、学んでいく。そういうことがどんどん大事になるんですが、そういうことを阻んでいくことに、実際になってるんじゃないかと。こういう風にちょっと考えていきますと、いっぺん未来は予測不能だということを真面目に真正面から受け止めて、我々の生き方、あるいは企業組織の運営の仕方ということを全部見直していこうということで、今回の本を書いたものです。


変化の時代に必要な4つの原則

この変化を前提にすると、1番やっちゃいけないのは「今までこうやってきたんだから、まあ今日も明日も過去のようにやれればいいんじゃないか、なぜ変えなきゃいけないの?」、こういう態度で行動するというか、仕事をするというのが1番やっちゃいけないことですね。こんなこと言われなくても誰でもわかってると思うかもしれませんが、先ほど言ったようなPDCAですとかルールを守る、こういうことによって、結果として過去のようにやってればいいんだと。あるいは、あえて新しいこと、新しいやり方を見つけたり、チャレンジしたり工夫したり、といったことをやらなくなっていまう。なので私は、仕事の仕方として、4つ、変化の時代に必要な原則があると考えています。

1つは、状況がどんどん変わっているので、そこで何が起きてるかっていうのは、本当のことは誰もわかんないやってみないと。やってみてそこから学ぶ。すなわち実験と学習。これが必要だということです。今までだと、もうある程度見えてきたら、それを標準化して横展開する。多くの場合これが良いことなんだと、特に日本では考えられていますけれども、それは、そのときは良かったかもしれないけど、状況がどんどん変わっていくんだったら、標準化がむしろ状況に適用するのを阻む方法になってしまった。こんなことが世の中でかなり起きてるんじゃないか、ということで、とにかく実験と学習というふうに発想を切り替えていくということが大事だと思っています。

この実験と学習、やってみて学ぶということは、その大きな目的が必要です。なので2番目の原則として、目的をちゃんと決める。手段にはこだわらずに、まさに実験と学習で決めていくということが2番目の原則です。そういうことがきっちりできるためには、最前線でやってみて学んでいる全ての人達、末端の人たちも含めて現場の人たちが、自己完結的に何をやっているのか、何を学ぶのか、こういうことを判断できる「機動力」を持たなければいけない、ということですね。ともすれば、我々がどうしても過去の間違いをもう一回くりかえせない、ということでチェックリストを作ったり、フェーズゲートを決めたりということで、どんどんその機動力を奪っていく方にともすれば行きがちなので、そういうことを超えて機動力を持たせていく。こういうことが必要になる。

今言った「実験と学習」、それから「手段にこだわらずに目的をどんどん追求していく」、「自己完結的に機動力を持っていく」という事は決して楽じゃないです。この楽でないことを常にやり続けるというような、「前向きな人づくりにきっちり投資していく」。やってみて学ぶっていうことは、それ自身にもある種のコストは当然かかります。これまで投資というと、モノや工場や、そういう有形な資産、せいぜい無形資産と言ってもソフトウェアという、ある種の形のあるモノを作って、それがどのくらいの価値を生むか、こんな発想で投資判断をしてきたんですが、実験と学習を常にやり続ける人をつくって、人が成長し、人がその実験と学習をする前には分からなかった、見えなかったものが見える人を作る。そういう人に成長させていく、と言うのが、今大事になっているということなので、この4つの原則は、従来の組織の計画を作ったり、予算を作ったり、PDCAを回したり、ライブ統制したり、フェイスゲートを、チェックリストを回したり、そういう管理統制的なことを無くするわけにもいきませんが、そういうことにやればやるほど、人の前向きにやってみて学んでいくということを、しっかり組織や企業の中に取り入れていくことが必要だと考えています。

次回は、楽でない、まさにそういうことを常にやり続ける人をつくるためにはどんなことが必要か? 実はそれが幸せっていうことの本質であるということをお話ししたいと思います。以上、矢野和男でした。

(以上、書き起こし終了)



『予測不能の時代』を語る 全6話 60min

1. 予測不能の時代の4つの原則

2. 幸せはスキルである

3. 幸せな組織の4つの特徴

4. 幸せは計測できる

5. 人の幸せは小さな行動で変わる

6. 予測不能な人生を生きる

矢野和男 

ハピネスプラネット 代表取締役 CEO、日立製作所フェロー。
1984年早大修士卒。日立製作所入社。1993年単一電子メモリの室温動作に世界で初めて成功し、ナノデバイスの室温動作に道を拓く。2004年からビッグデータ解析とウエアラブル技術を先行研究。論文被引用件数は4500件、特許出願350件を越える。開発した多目的AI「H」は、物流、金融、流通、鉄道など分野に適用され、産業分野へのAI活用を牽引した。身体運動から幸福感を定量化する技術を開発し、2020年に株式会社ハピネスプラネットを設立。博士(工学)。IEEE Fellow。電子情報通信学会、応用物理学会、日本物理学会、人工知能学会会員。日立返仁会 副会長。東京工業大学大学院特定教授。 2020 IEEE Frederik Phillips Awardなど国際的な受賞多数。著書『データの見えざる手』に続き、2021年『予測不能の時代』を上梓。

早速VOOXを聴いてみよう!

VOOX Apple App StoreDownload VOOX on Google Play