【書き起こし】原研哉さん「日本という未来資源の可能性」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「日本人の自然観と文化」を書き起こしで紹介。世界の第一線で活躍するデザイナーの原研哉さんが、日本の文化を支えてきた美意識とは何か、未来資源としての日本の可能性について考察します。

(オープニングジングル)
原:

デザイナーの原研哉です。しばらく「日本という未来資源の可能性」ということでお話をしてみたいと思います。ちょっと硬いんですけどね。未来資源なんていう。まあそんな風に、日本のことを捉えることは、なかなかないかもしれないですけども、僕は日本列島とか、日本の文化とか美意識とかそういうものがね、ただ伝統っていうことだけじゃなくて、すごい大きな資源になる時代になってくると思ってるんですね。ですから、日本の精神のルーツがどこにあるのかとか普段考えないと思いますが、そういうことも含めてちょっとお話をして行きたいと思います。

まず自己紹介。デザイナーとお話をしましたけれども、普段は皆さんのよくご存じなところでいくと、無印良品のアートディレクターをしてます。広告を作ったり、最近は掃除のキャンペーンをやったりとかですね、タグとかラベルのデザインをしたり。いろんなことやってるんですけども、例えば蔦屋書店のマークとかのを作ったり、GINZA SIXのロゴとかVI、2000年ぐらいに松屋銀座が白い松屋になったんですけども、その時のファサードのデザインとかですね。MIKIMOTOっていう宝石屋さんのロゴを作り直したり、パッケージをやったり、銀座の辺りが割と仕事場も銀座なんで多いんですけども、無印良品の仕事をしたり、銀座の仕事したりしていると、どうしても日本のことをちょっと考えてしまうんですね。そのあたりから少し話を始めていきたいと思うんです。


人智の及ばないもの


まず日本列島って、僕らはもう見慣れてしまってるんですけども、どんな風にできたかっていうあたりが結構大事なんですよね。まあ日本列島がユーラシア大陸から引きちぎられたというのが、だいたい3000万年前って言われてるんですね。言われているというか誰も調べられないんですけど、そう言われています。プレートテクトニクスっていう、どんなふうに大陸やプレートが動くかということを研究するような学問があって、そういうふうに言われているわけですが、そのユーラシア大陸からちぎれた島がもう一回くっついて、「く」の字になったりとか、あるいはそのマグマというか火山帯なんですよね。プレートが沈むところでは非常にたくさんの火山活動が起こるんですけども、引きちぎられた後にたくさん火山が噴火してですね、日本列島が出来てきたんですよ。まあその海中に出現した日本列島というのは非常に特殊な自然環境を持っていてですね、とても自然が豊かであるということと、火成岩体が地面から露出してくるので、巨岩がいたるところに露出してるわけなんですよ。

人間が住み始めて、その日本列島の自然に向き合うわけですけども、まあすごい自然のこの威容というか、様相にやっぱり恐れおののく気持ちが湧いてくるわけですよね。日本で言うとですね、紀伊半島ってありますよね。あの辺は巨大カルデラ爆発っていうのが起こったって言われてて、カルデラ爆発というのは火山が1つ爆発するだけじゃなくて、連続的に爆発して、それが一斉に起こるわけなので、阿蘇山も巨大カルデラって言ってるんですけども、紀伊半島のカルデラはそれよりも全然大きいですね。そういう紀伊半島のカルデラが爆発すると、世界の空が10年ぐらい曇っていたんではないかっていうぐらいの噴煙が巻き上がるような大爆発があった、というふうに言われてますね。

まあ今でも紀伊半島に行くと、やっぱりその火成岩体がどんどん露出してですね、見るとやっぱりとてつもない、人智の及ばない何か凄いものが蠢いている感じがするんですね。例えば那智の滝ってありますよね。那智の滝っていうのは、山の上で川が水が削ってできたというよりも、巨岩が下からガガーッと持ち上がってですね、一枚岩なんですね。その段差でもってあの滝ができてたりして、あの辺は滝が結構たくさんあるんですよね。でも、あの辺もある意味では霊性が顕現しているというか、自然の力が湧き上がっている感じがするんですよね。だから古代の日本人というのは、縄文時代から文化の痕跡が残っているわけですけども、すごい豊かだった。だから狩猟採集をするのもそんなに難しくなくて、結構豊かに、周りが海に囲まれていて、今でも国土の67%森なんですけども、ほとんど湿潤な山々に囲まれていたわけなんですよ。だから田畑を耕してコメを作ったりしなくても、そこそこ豊かに暮らしていけたので、わりと稲作が伝播してきてもなかなか稲作につながったりするような、すごい豊かな国だったんですよね。


人間の叡智か自然への畏怖か?


西洋の文化っていうのは、例えばキリスト教にしてもイスラム教にしても、砂漠で生まれた宗教だったり宇宙感だったりするんですね。宗教というよりも宇宙観ですか、人智の及ばない王になる者に対して人間がどういうイマジネーションを持つかということが、まあ世界観だったり、宇宙観だったりするわけですけども。砂漠で生まれた宇宙観っていうのは、どっちかというと人間の営みというのをポジティブに、作るものとか建築とかポジティブに人智というものが叡智として展開しているようなイメージを持つわけですが、日本のように自然がすごい場合はですね、叡智っていうのは自然の側にあって、人間はその自然の叡智によって生かされているっていう、そういう感覚を持ってた。だからまあ、日本人の精神の、心の、その始まりっていうのは、まあ自然に対する敬意というか、畏怖っていうか、そういうとこから始まってくるわけですね。

古事記とか読んでも、いろんなところに神様が出現するわけですけども、日本の神様っていうのは森羅万象いろんなところにいるんですよね。やおよろずの神様って言いますけども、山の上でふらふら飛んでいると思えば、田んぼの脇にしゃがんでたりとか、里の家の近くに行ったり、海の底のタコツボの中にいたりとかっていうふうに、浮遊している感じですかね。だから大根を引っこ抜くと先端に神様が1人いたりとか、お米1粒の中に7人神様がいたりとか、どっちかというとやばいところにいたりするんで、目が病気になって目からなんか膿が出て水で洗うと、何とか彦名の神様となんとか彦の神様が生まれてくるみたいな、そんな感じですかね。だから精霊のような、そういうものがいろんなところに潜んでいる感じっていう、そういうものと対話しながら自然観を作ってきたっていう。それが日本の精神性の非常に根底にあるように思うんですね。

まあ、そういうようなところが非常に重要で、こないだ熊野の森とか巨岩を見に行ったんですけども、なかなかやっぱ凄いなあと。あそこは世界遺産になって、熊野古道っていうのが遺産になってるんですけども、それは仏教とか神道の遺産、あるいは山岳信仰の遺産、というのがあるって言うんですけども、そういうものが融合してるんですね。高野山があったり伊勢神宮があったりするんですけども、山岳信仰も独自にあるんですけれども、何ということではなくて、そういう自然に対する畏怖の心が山の中をうろうろすることで育ってくるというか、そういうふうなイメージなんじゃないかなと思いますね。

日本には仏教というがやってくるわけですけども、仏教が日本に立ち上がったというよりも、あるいは仏教というのが日本に伝播したというよりも、日本の人達は自然に対する敬う気持ちというのがいろいろあってですね、そういうモヤモヤした気持ちが、神道と今言われているようなものの根源なんですけども、仏教って構造体なんですよね。ものすごく複雑な構造体が大陸からやってきたので、そのからまりしろを持った構造体に、神道というか自然を敬う気持ちみたいなものが憑依していくっていうか、絡まっていくというか。そうやって日本のそ仏教というのができてくるんですね。ですから、神仏習合とか本地垂迹とか、いろんなことを言われてるんですけども、それは自然に対する敬う心が、仏教という構造にある意味で絡まっていっている状況というか、そんなふうに考えると日本の、なぜお正月にお宮に参って、あるいはお寺さんにも参るのかっていうようなことは、そういうようなところで理解できるかなと思うんですけどね。

いずれにしても日本のベーシックっていうのが、やっぱり圧倒的に恵まれた自然というものの共にあるっていうことが、すごく大事なんじゃないかなと思います。第1回目は日本人の自然観と文化ということでお話をいたしました。デザイナーの原研哉でした。

(以上書き起こし終了)

「日本という未来資源の可能性」
全6話 60min
1. 日本人の自然観と文化
2. 足利義政と日本の美意識
3. シンプルとエンプティ
4. 日本が生んだ四角いクルマ
5. 暮らしの形としての家を取り戻す
6.日本という未来資源の可能性

原研哉
「もの」のデザインと同様に「こと」のデザインを重視して活動中。2002年より無印良品のアドバイザリーボードのメンバーとなり、アートディレクションを開始。長野オリンピックの開・閉会式プログラムや、 愛知万博の公式ポスターを制作するなど日本の文化に深く根ざした仕事も多い。2008-2009年には「JAPAN CAR展」をパリとロンドンの科学博物館で開催するなど、 産業の潜在力を展覧会を通して可視化し、広く世界に広げていく仕事に注力している。 2010年に「HOUSE VISION」の活動を開始。 2011-2012年には北京を皮切りに「DESIGNING DESIN 原研哉 中国展」を巡回し、活動の幅をアジアへと拡大。著書「デザインのデザイン」や「白」はアジア各国語版をはじめ多言語に翻訳されている。日本デザインセンター代表取締役社長。武蔵野美術大学教授。 日本グラフィックデザイナー協会副会長。



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