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【収録裏話】原研哉さん:巨匠の原稿メモ

昔から、人の本棚とノートを見るのが好きだ。本棚は、その人のインプットの足跡が感じられるからで、ノートは逆に、その人のアウトプット形式が見れるからだ。

仕事で打ち合わせなどをすると、相手の手元のノートをつい見てしまう。どんな大きさのノートなのか?罫線が引いてあるのか?方眼なのか、それとも無地なのか?そして打ち合わせ内容をどう書いているかも見てしまうことがある。

あるビジネスデザイナーの方は、常に横長の無地のノートを使われる。そして、こちらの話を聞きながら、太めのペンで図を描いておられる。話を構造化して理解しようとする方のようだ。

コンピュータサイエンスの研究者の方にもノートを見せてもらったことがある。この方のノートには、ご本人しか内容がわからないであろう。曼陀羅のような図やポンチ絵、さらに数式なども描かれていて、さらに時折iPhoneで撮影された別のノートの写真もプリントアウトされ貼られている。「頭に浮かんだアイデアは描いてみる」とおっしゃっていた。

今日VOOXでリリースされたコンテンツは、グラフィックデザイナーの原研哉さんである。もはやグラフィックの世界を超えて、日本のクリエイティブや文化創造の第一人者。

VOOXの収録では、事前に打ち合わせをし、放送作家さんが作られたラフな台本を用意し、それにスピーカーの方が肉付けされたものをもとに話される。

多くの方が、ワードファイルなどで、話す内容を順番通りに箇条書きや、短い文章などで用意されてこられる。こんな光景に何度も立ち会っていると、話をする際のメモは、こういう文字形式のメモを使われるものだと思い込んでいた。

こんな想定を見事に打ち破ってくれたのが、原研哉さんだ。収録を前に原さんがテーブルの上に取り出したのは、A3の大きさの厚手の画用紙だった。そこには、20枚ほどの正方形のポストイットが貼られている。ポストイットには、箇条書きされた言葉もあるが、図やグラフ、そして簡単なイラストもある。あるいは言い間違えてはいけない数字や固有名詞を書いたものも。一見して、横から見るのか縦から見るのかもわからないが、どのポストイットも表現力を感じる書き方がされている。おまけに、そのポストイットの配置だけで絵になるように、その間隔も、その余白も含め、全体として一枚の絵のような美しさがあるのだ。

VOOXは6話で1コンテンツなのだが、原さんは、ポストイットが貼られたこのA3のボードを6枚用意されていて、一枚で一話というわかりやすい作り方をされているのだ。


お伺いすると、前日の夜に数時間かけて、これから話す内容を整理し、話をする順番と構成、そして必要な様子をまとめてきてくださったそうだ(そんなご尽力には本当に感謝しかない)。各ポストイットは、講演でのプレゼンシートのような役割を果たし、その図やイラストをご自身が見ることで、話す内容を思い出すのか。あるいは、ここに描かれていることを、ビジュアルでなく言葉で伝えようとするためのものなのか。

何かとてつもないクリエイティブな思考の足跡を見せてもらっている気分だった。デザイナーとはこうやって自分の頭を整理し、表現することをまとめるのか。しかも、その自分用のメモであるにもかかわらず、それ自体に美しさがあり、構造化されていて表現力が備わっている。これを見るだけで、こちらの思考が刺激され、何か考えたくなるのだ。第一人者の真骨頂を見せてもらった心境だった。

原さんご本人は、僕らがその原稿シートにそこまで食いついているのを不思議そうにご覧になっていた。「ポストイットの位置も考えられているですか」などと訊くと、「いや、何も考えてないですよ」と。あまりに頓珍漢な質問。ご本人は無意識のうちに完成形としてはこうなっただけのようだ。

収録をしていると毎回思うが、ご自身の考えや経験などをご自身の言葉で表現される、その瞬間に立ち会えるのはどれほど貴重な体験だろうか、と。今回はそれに加え、思考のプロセスまで見せてもらう途方もない体験をさせてもらった。

2021/10/4 VOOX編集長 岩佐文夫

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