【書き起こし】保科眞智子さん「茶道の心」 を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「なぜ今、お茶なのか」を書き起こしで紹介。茶道家の保科真智子さんが、お茶の世界に根ざす精神を解説し、お稽古事としてのお茶ではなく、日常に茶の湯の心を取り入れることで見えてくるもの、変わるものを伝えます。

(オープニングジングル)
保科:

皆さんはじめまして茶道家の保科真智子です。今回お送りする「茶の心」では、お稽古事としてのお茶ではなく、日常に茶の湯の心を取り入れることで見えてくるもの、変わるものをお伝えします。

初回なので、私の自己紹介をさせていただきます。私は茶道裏千家教授で、お茶名は保科宗眞と申します。学生時代からお茶のお稽古をしていまして、茶歴30年ほどになります。プライベートでは3人の子育てをしているお母さんです。和の心を伝える日英バイリンガル茶の湯ナビゲーター​​という肩書きも持っています。国際会議、大使館、インターナショナルスクールなど国際的な場面において、お茶を英語でご紹介することによって、日本文化とその心をお伝えする、そういった機会の提供もしています。そのことから、言葉や文化を超えたお茶の普遍的な魅力についてもお話したいと思います。

新型コロナウイルスの世界的な蔓延が長引く中で、私たちの生活は大きな変化を余儀なくされています。先行きの見えない閉塞感から、知らず知らずのうちにストレスを溜めてしまっていたり、 自分を見失いそうになる人が増えていると聞きます。「お茶する?」『 ちょっと一服」……昔からこんなセリフで小休止をすることを、私たち日本人はしてきたのだと思います。「茶の湯」という言葉ですが、抹茶を茶筅でお茶碗を使って点てる。茶道で愛好されているお茶の飲み方のことを指しています。お茶とお湯、ただそれだけ。こんなにシンプルなもので心豊かな、壮大な日本文化を体験できる。そういう意味で私は、茶の湯という言葉を今回は使わせていただきます。


茶の湯は五感のコミュニケーション


茶の湯は体験型の文化体系です。ですので、どなたでも参加することができます。言葉を超えた五感のコミュニケーション。香り、味わい、温もり、あと音ですね。そういった五感で感じるものをすべて取り込んで味わう。亭主の方は、それらを表現することをお点前の中でしています。

皆さんは千利休という人をご存知ですか? 戦国時代、天下人の豊臣秀吉に仕えたお茶の大家で、今、多くの人が愛好している「茶道」と言われる「わび茶」を作った人にもなります。千利休の教えを百首にまとめたもの。その中にこういった歌があります。

茶の湯とは
ただ湯をわかし
茶をたてて
飲むばかりなる
ことと知るべし

シンプルなものほど 奥が深い。早くも禅問答のようになってまいりました。

お茶を飲むという喫茶文化は、それよりもはるか前、仏教の伝来とともに大陸から日本へ渡ってまいりました。当時は平安貴族にのみ楽しまれて、それ以上の発展は見られなかったと言われています。後に鎌倉時代になって、大陸に仏教を学びに行って戻ってきた栄西(えいさい、あるいはようさい)というお坊さんが、お抹茶を点てる方法と、その道具と、そしてお茶の種を持って帰ったと言われています。そこから宇治のあたりで茶の栽培が始まり、日本独自の抹茶の製法が確立し、武家社会の中で広がっていきました。

お茶のお稽古は女性のもの、花嫁修業やお稽古事と思っているかたが多いのではないでしょうか? でもその歴史をたどると、元は男性のものであったこと。戦国の世を生き抜くための、ある意味命を輝かせる精神性の深い、そして今の時代にこそ必要な文化であった、というふうに捉えることができるのではないでしょうか。 私は、このVOOXを聞いていらっしゃるビジネスパーソンの皆さんに、ぜひ性別や世代にかかわらず、お茶の文化に出会っていただき、この古くて新しい価値を提案できればと思っています。


和・敬・静・寂とは


私が海外の方にお茶のことをお伝えすると、皆さん決まってその心に触れて感動されます。その心とは4つの漢字で表すことができます。 和・敬・静・寂(わ・けい・せい・じゃく)。英語では harmony(ハーモニー) respect(リスペクト)  purity(ピューリティ) and tranquility(トランクィリティ)このようにご説明しています。お茶のお点前という決まった方法で、お客様の前で抹茶を点てて、そしてもてなす。そのもてなしを受け、お互いの心と心が交流し、また素晴らしい芸術作品でもある道具たちを愛でる。「今ここに私たちは生きている」……五感を通してそれを喜ぶ。自然と交わる。人と自然も、モノ。これが一体となる瞬間をお互いに作り上げる。その間に和敬静寂という精神がみなぎり、いわゆる一期一会という瞬間が作り上げられるのです。 言ってみれば、お茶会というのはそれが究極の目的です。

こう説明すると何か堅苦しいようにお感じになるかもしれませんが、今、私たちがコロナ禍で不自由な生活を余儀なくされている時に、人と会ってご飯を一緒に食べたり、お茶やお酒を一緒に飲んで交わること。これが人生をどれほど楽しく豊かにしてくれるものだったかということに、皆さんそれぞれ気づいていらっしゃることと思います。それは時代を遡っても全く同じことだったのでしょう。茶の湯という文化体系が、今日まで連綿と生きた文化として伝えられてきたこと。これがその事を証明していると私は思います。温故知新と言いますが、現代の私たちが伝統文化であるお茶から何を読み解き、生かすことができるか。そして実践の方法についてお話しします。以上、茶道家の保科眞智子でした。

(以上書き起こし終了)

「茶道の心」  全6話 60min
1. なぜ今、お茶なのか
2. 茶の湯の精神
3. 茶の湯とデザイン
4.「型」から見えてくるもの
5. 茶の湯とマインドフルネス
6. 日常生活でお茶を点てよう!

保科眞智子
1972年生まれ。茶道裏千家教授。江戸時代の大名であり、徳川家康の孫、保科正之の末裔にあたる。バイリンガルを生かし「茶の湯ナビゲーター」。小伊万里再生プロジェクト代表理事としても活動。著書に『英語 DE茶の湯』『sa it is 暮らしにお茶を。』などがある。



早速VOOXを聴いてみよう!

VOOX Apple App StoreDownload VOOX on Google Play