【書き起こし】 手塚マキさん 「歌舞伎町〜なぜ人を魅了するのか」を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの第一話「 歌舞伎町の出会い」を完全書き起こしで紹介します。元ナンバーワン・ホスト 手塚マキが独自の文化を持ち時代と共に変遷してきた歌舞伎町の魅力を語ります。

(オープニングジングル)

手塚:

皆さんはじめまして。Smappa!Group会長、歌舞伎町商店街振興組合常任理事の手塚マキです。今回よりお送りする「新宿歌舞伎町〜なぜ人を魅了するのか?」では、独自の文化を持ち、時代とともに変遷してきた歌舞伎町のリアルと人を惹きつける魅力について語ります。

初めて私のことを知るという方もいらっしゃると思うので、まずは自己紹介させてください。出身は埼玉県の川越の奥の方。田園風景が広がる田舎町で生まれ育ちました。幼少の頃から田舎なので運動と勉強しかすることがなく、よく勉強し、よく運動もする優等生として生きていました。ただ、私が生まれた1977年という世代は、まさに就職氷河期と言われている世代でして、高校時代ぐらいから将来の先行きに対する不安、当たり前に良い大学に行って良い会社に就職して定年まで迎える、ということが当たり前だと教育されてきたのに、あれ、なんかちょっとそんなことあるのかな? と疑問に感じてくる世代だったんですね。私自身の通っていた高校は公立だったんですが、ものすごくリベラルな学校で、例えば僕のラグビー部の顧問の先生なんかは「こんな授業に出てないでデモに行け」っていうような、そんな感じだったんですけれども、まあそういう影響もあって、社会っていうものに対して、そしてそれまで教わってきた教育の中で、自分が想像する社会というものが、なんかこう一致しないというか、疑問を持ったまま大学受験を迎えました。


社会を裏側から見てみたい

やっぱりそんな疑問を持ったまま受験勉強しても身になることはなく、より社会に興味はどんどん増していって、もう大学で一生懸命勉強する4年間よりも、もうとにかく早く社会に出たいという思いが強くなってしまって、大学に通いながら働こうと思い、夜間の大学に行く選択をしました。そのときに、じゃあどういうところで働こうか? と思った時に、今まで真っ当な道で生きて、表社会をずっと見てきたので、社会っていうものを裏側から見たらどうなってるのかなっていう、そっちのほうが実は本当の社会の本質というものがわかるんじゃないのかなと思って、水商売という世界でアルバイトをしてみて、社会がどんなものなのか見てみようと思って、新宿歌舞伎町の水商売、ホストクラブで働き始めました。しかし、実際に入ってみたホストクラブ、1997年のホストクラブというのは、まさにおそらく皆さんが想像するようなアングラの社会でした。それを期待して入ったんですけれども、想像以上にアングラであり、非現実的であり、生半可な気持ちで大学生のアルバイトの感覚で中途半端にできる仕事じゃないなと、入店して1ヶ月もしない時に気づきました。

ただ、あまりにもその毎日毎日がバイオレンスであり、いろんなことが起きて、そこで働いてる先輩達っていうのが、みんな僕よりも1歳、2歳年上であるにもかかわらず、学校にあまり行ってない人が多かったので、社会経験っていうものを既に20歳ちょっとで積んでいる人たちが多かったんですね。同じように大学に行って1個上、2個上のサークルの先輩たちと比べたときに、水商売の先輩達の方が何倍も大人で、何倍もカッコよくて、何倍も社会のことを知っていて、7月の前期の試験、微分積分の試験の時に、この積分の問題を解くことはいずれ将来において、ものすごく役に立つ知識だということは理解しているんですけれども、それも目の前で今すぐにでも社会がどういうものなのか? 自分が社会の一員でありたいという思いの方が強い。僕はその時に微分積分の試験を白紙で出して、大学には二度と戻らなかったです。

そこからもうがむしゃらで、それまでの人間関係をすべて絶って水商売の世界に没頭して、売上を上げること、ナンバーワン・ホストになることだけに集中した時間を過ごしました。数年かけてナンバーワンになって、じゃあ次、何やろうかなと思ったときに、今度は水商売に没頭しすぎて、水商売じゃない世界のことが分からなくなったんですね。とはいえ今このままじゃ嫌だなと言うか、このまま続けるのはなんか違うなと思って、なんか流れで独立する事になりました。それが2003年でした。別に水商売を始めたきっかけが、独立してお金を稼いでやろうとかっていうことではなく、社会を知って自分自身を成長させるために始めて、経営に興味があったわけではなくて、ただ流れでお店をやったので、まあお店がやっぱうまくいかなかったんですね。で、うまくいかない中で、でも自分は一生懸命ホストとして頑張ってたのに、うちで働いている従業員たちはなんでみんな一生懸命頑張れないのかなと。もっとがむしゃらに頑張れ、頑張れって思ったのに、全然みんな頑張らないと。まあそんな中、僕もだんだん経営に対するやる気もなくなり、スタッフたちもどんどん減っていき、一番その中でも信用していた優秀なナンバーワン・ホストがいて、その彼に経営を任しちゃって、もう僕は引退しちゃってもいいかなぐらいに思っていた子がいたんですけれども、その彼が辞めたいと僕に言ってきました。

ホストクラブの価値とは?

僕からすると一番信用していたし、一番期待していた人間が辞めたいと言ってきて、自分が言ってきたことも、やってることも何の意味もなかったなと思い、もう店は閉めようと、もう一回ゼロからまた考えればいいかなぐらい、もう開き直る気持ちもないぐらい打ちひしがれていた日々を過ごしている時に、一番ホストの中でも問題児の男の子が、僕は裏でボーッと打ちひしがれている時に酔っぱらってやってきて「お店を閉めないでください、僕はここしか居場所がないんです」ということを僕に言ってきたんですね。それを聞いて、「あ、それは別にそいつの話じゃなくて俺の話なんだな」と思ったんですよ。未来のためとか何のためとかっていうふうに仕事をして、店をやっていたけれども、単純に僕にとっても、この彼にとってもこの店っていうのは居場所になってるんだなと、その時に気付いて、僕はその時に、要はそのダメなやつら、若者たち、今まではどこを見てたのかもよくわからなかったんですけれども、その彼らにちゃんと目を向けて、どうやって生きていくか、どうやって生きていけばいいのかということを一緒に考えて、自分自身が彼らに対して責任を持とうって思ったときに、ちゃんとこのホストクラブというものが社会的にどういう価値があるのか、ホストを仕事としてやるっていうことはどういうことなのか、っていうのを僕自身がちゃんと理解しなければ、彼らにここで働くということを堂々と言うこともできないと思って、勇気を出して。歌舞伎町の外にちゃんと目を向けるようになりました。

同世代の同級生たちとも連絡を取ったり、NPOの人たちにコンタクトを取ったり、いろんな社会的活動をしたり、同世代の経営者の人たちと会ったりとか。まあ実際に、水商売だっていうので白い目で見られることっていうのもすごく多かったんですけれども、いい友達たちに恵まれて、あまり奇異な目で見られることなく、同世代の人間たちといろいろ社会のことや、経済のことや、政治のことなどを語れるような仲間と巡り合えて、いろんな社会を見ることができました。その上でスタッフたちに社会とはこういうものなんだと、水商売で働くという意味はこういうものなんだ。その時によく語っていたのは、これからの成熟社会において、ものの差異がなくなっていくときに、誰から何を買うかではなく、誰から買おうかという時代に変わって行くと、その時に選ばれる人間でいること、さらにAIとかがどんどん仕事を奪っていくであろう未来を予測すると、人間の価値、人としての価値っていうものを自分自身が培っていかなければ、人としての価値がどんどん無くなっていくんだよ。だから一生懸命本を読んだり、映画を観たりして、教養を培っていこう、みたいなことを彼らには教育していくようになりました。そこからうちはゴミ拾い団体を立ち上げてゴミ拾いをしたりだとか、本屋を開いてホストに書店の店員をやらせたりだとか、最近だと月に一回短歌の歌会をやったりだとか、そういう教養を身に付けるということは、もう20年近く変わらず、ずっと続けてきています。

そういうふうに社会、かぎかっこ付きの一般社会と、歌舞伎町いうものを行ったり来たりして、両方を見てきた自分なんですけれども、そうする事によって、歌舞伎町というものが、客観視して、俯瞰して見らるようになっていったんですね。その時にやっぱり思ったのが、人間として健全でいられるのは、歌舞伎町の方なんじゃないかっていうことに、あるから気付きました。それはどういうことかというと、これから5回にわたって伝えられたらと思っております。以上手塚マキでした。

(書き起こし終わり)

「歌舞伎町〜なぜ人を魅了するのか」全6話 60min

1. 歌舞伎町の出会い

2. ホストクラブ

3. 多様性を生んだ歌舞伎町

4. ホストクラブの可能性 ~女性の自立を促す存在になれるか

5. 偶然性の価値

6. 今を生きる

手塚マキ

歌舞伎町でホストクラブ、バーなど十数軒を構える「Smappa! Group」会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事。1977年生まれ。97年から歌舞伎町で働き始め、ナンバーワンホストに。ホストのボランティア団体「夜鳥の界」を立ち上げ深夜の街頭清掃活動を行う。NPO法人グリーンバードでも理事を務める。著書に「新宿・歌舞伎町」など。

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