【書き起こし】山崎繭加さん「生け花を人生にいかす」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「なぜ、私は生け花を語るのか」を書き起こしで紹介。生け花の世界に魅了され、かつビジネスと教育の第一線で活躍されてきた山崎繭加さんが、生け花の魅力を紹介し、そこに流れる考え方を仕事や生き方にいかに繋がるかを語ります。

(オープニングジングル)

山崎:

皆さんはじめまして、華道家の山崎繭加です。今回よりお送りする「生け花を人生にいかす」では、生け花の根底にある考え方、思想、そしてそれがどのようにビジネス、特に経営、組織、さらには人の生き方にまでつながっていくかについてお話しします。

初回なので、私の自己紹介からお話します。「なぜ生け花を始めたのか?」という質問をよく受けるんですけれども、生け花は大学生の時に始めました。これは完全にたまたまのご縁と軽い気持ちで、当時国語の塾の講師バイトをしていて、その国語の塾の空いている教室で生け花教室が始まるので「良かったら受けてみないか?」と声を掛けられて、だったら受けようかなっていうぐらいの気持ちで始めました。それが約20年以上前の話になります。

キャリアとしては大学で経済学を勉強した後に、経営コンサルティング会社のマッキンゼイに新卒として入社しました。その後、東京大学で助手として働いて、アメリカのワシントンDCにあるジョージタウン大学国際関係大学院に留学をしました。その後、2006年から10年間、ハーバード大学の経営学の大学院、ハーバードビジネススクール、HBSというところで10年間働いて、主に日本のスタッフとして日本をハーバードビジネススクールの先生に売り込みながら、いかに日本をハーバードビジネススクールの教育や研究に入れてもらうかということに日々奮闘しながら、先生といっしょに教材を作ったり、研究をしたりという10年間を過ごしました。

生け花に関しては、マッキンゼーで働いていたときちょっともう続けられないと思って、一回ブランクがあったんですけれども、その後また再開し趣味として働いている間も続けていました。その後、いろんなことがあって、趣味として続けていた生け花を自分の人生の中心に置こうと決意をして、2017年、華道家として独立して生け花の叡智を現代の社会、特にビジネスの分野につなげていくという、そういった理念を持った「IKERU」という活動を立ち上げました。今はこの「IKERU」の活動を中心に行いながら、ハーバードビジネスレビューの日本版の編集のお手伝いをしたり、また企業の社外取締役をしたりと、生け花と経営の間をウロウロしながら日々を生きています。

では、なぜ私が生け花について語るのかについてお話します。 生け花と聞くと、多くの方が女性が花嫁修業でやるものだとか、型があって伝統的でちょっと難しいだとか、何か自分にとっては縁のない遠いものだと思ってらっしゃる方が多いんじゃないかなと思っています。実際、私も長年続けながら、やはり生け花というのは日本の伝統であって、女性たるものやらなきゃいけないものなんだと、そんな思いで続けていました。けれどもハーバードビジネススクール、HBSで経営学の先生達と一緒に仕事をして、まさにその経営学の最先端を触れていく中で、 経営学の最先端で語られていることと、生け花がずっと大切にしてきたことの間に共通点があるんじゃないかなと感じるようになりました。

なので、生け花というものが特定の人が趣味として、限られた時間にやるというものではなくて、もっと多くの人が生け花の知見、生け花の精神、生け花の叡智から学んでいったら、それは多くの人にとってより人生を豊かにする、組織を経営している人であればより組織経営が味わい深いものになっていくというようなことがあるんじゃないかなと感じるようになっていきました。


「花を生ける」のではなく「花を生かす」

「生け花って何ですか?」という質問をよく受けます。生け花自体には長い歴史があって、本当にたくさんの方が生け花に向き合ってこられたので、1つの定義はありません。でも、私の中で自分なりの経験をもとに、もし一言で言うならば、生け花というのは「花を生けるのではなくて、花を生かすもの」です。「花を生ける」というと、どうしても人間が主体となって、花を使って生けるという感覚に聞こえると思うんですけれども、「花を生かす」というのは、あくまで花が主体。人間は花を生かす、そういった立場にあります。その花を生かすためには、自分自身がまっさらな心で、透明な心で向き合っていないと、どうやって生かしたらいいのかという花の声が聞こえてこない。なので花に向き合うときは常にまっさらな無心で向き合う。そういった心のあり方も生け花にはともないます。

人間が主体で自然に働きかけてよりよい世界を創っていく、というのは非常に西洋的な考え方だと思います。私が働いていたHBS、ハーバードビジネススクールも、理念は世界を変えるリーダーを教育する、育成するという、やっぱり人が世界を変える。そういったことを理念として描かれた非常に西洋的な場所でした。でもそういったHBSだとか世界の経営学の中で、より東洋的な、人間が主体ではない人間は自然の一部であったり、人間も自然の一つであってそこに何か対立するものがあるのではない、大きな中の一つである。そういった考え方が経営学の中にも見られてくるような、そういった感覚を持ち始めました。

例えばマインドフルネスという言葉を聞かれた方もいらっしゃると思うんですが、これは禅の思想をベースにしています。今やマインドフルネスは、西洋のビジネスリーダーたる者みんなやるもの、というようなことになっています。そういった東洋的なものが、西洋の方に受け入れられている。組織開発とか組織変容の分野でも、組織のリーダーがごりごりと変えていくというのが組織変革ではなくて、リーダー自身が自分の奥底に下りていって、自分自身を新しく発見して自分が変わって、その先に組織の変容がついてくる。自分をより深く理解し、自分を手放した先に組織も変わっていくという。そういう組織変革の理論、考え方も主流になってきたのがこの20年だなと思っています。

そういった西洋の考え方は、特にHBSなんて資本主義の総本山と言われる場所で、西洋的考えのど真ん中にいるそういった学校ですら、「手放す」だとか「あり方」だとか、そういう言葉を多用するようになっていて、経営学でも、ありのままとか、ありのままというのは英語ではAuthentic(オーセンティック)って言いますけれども、そのまさにオーセンティック・リーダーシップみたいな言葉が、主要な科目、HBSで教えられる必修科目の筆頭になってくるというような変化が、2010年ぐらいから起こってきていました。


生け花の叡智が求められる時代

おや、何やら今は東洋的な考え方、東洋的な感覚というのが西洋の世界に必要とされている。むしろ西洋の方々こそ、そういったものに貪欲に学ぼうという、そういう流れがきてるんだなっていうのを感じていました。実際に私自身にとって大きな契機になったのが、2014年にハーバードビジネススクールの先生たちが18名、その他スタッフが十何名、あとはハーバードビジネススクールのアドバイザーをやってらっしゃるような非常に経験豊富な方々、全部で数十名の方が、1週間日本に来るというプログラムを企画して日本を知ってもらうということをやりました。

その最終日にちょっと時間をくださいと言って、2時間だけ生け花のワークショップをやらせていただきました。そこで生け花のお話をして、ちょっと皆さんが生け花とは何かっていうのを体験して頂くような、そういう2時間のワークショップをやったんですけれども、その時の反応が非常に良くて、その良いというのが、「何かオリエンタルで、エキゾティックで、今まで知らないカルチャーに触れた」ということではなくて、 自分が「これが大切なんじゃないかと思っていた」とか、「こういったことがやっぱり人生とかビジネスとか、世界にとっても大切だよね」っていう、そのエッセンスが何かここにあるというような反応をしてくださったんです。そういう西洋的な考えのど真ん中にいる人に生け花をぶつけてみたところ、なんかとても温かな、深い、豊かな反応が返ってきた。それまではなんとなくの予感でしかなかった、東洋的なものが西洋に受け入れられているっていう予感でしかなかったものが、生け花というものをより西洋的な考えの世界に持っていく、向こうが必要としているものなんだ、という確信に変わっていった契機になりました。

それが2014年だったので、実際に独立するまでにはまだ何年間かかかったんですけれども、その後、華道家として独立して、そのときの予感を活動にして、個人向け、それからさまざまな組織、 海外の方にも生け花というのをお伝えして行く中で、まさに自分の「確信」といいながらもやる前は「仮説」でしかなかった「生け花の叡智、知見は世界に求められている」というものが、本当の確信、手応えに変わってきたというのが、この数年になります。

ここまでなぜ私が生け花を語るのかについてお話ししました。次回以降、生け花がどうビジネスに具体的に繋がるのか? さらにはどう生き方につながっていくのかというお話をしていきたいと思います。

(以上書き起こし終了)

「生け花を人生にいかす」全6話 60min


1. なぜ、私は生け花を語るのか
2. マインドフルネスと生け花
3. 組織論と生け花
4. チームマネジメントと生け花
5. クリエイティビティと生け花
6. つなぐもの、としての生け花

山崎繭加
マッキンゼー・アンド・カンパニー、東京大学先端科学技術研究センターを経て、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)日本リサーチセンター勤務。2017年、華道家として独立。20年続けてきた生け花の学びや精神をビジネスや教育界につなげる活動「IKERU」を開始し、生け花のレッスンや企業や学校でのワークショップ、展覧会を開催している。著書に『ハーバードはなぜ日本の東北で学ぶのか』。

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