(オープニングジングル)
福原:
皆さんはじめまして、アーティストの福原志保です。今回よりお送りする「発想力の育て方」。発想力を育てる方法っていろいろあると思うんですけど、私なりの目線とか方法でどのようにしたら発想力を育てられるのかをお伝えしたいと思います。
さて、なぜ発想力がテーマなのかというと、今世界の変化がものすごく早いじゃないですか。もはや、もう合理性やデータだけではこの世界を捉えきれない状況になってます。今のビジネス界も全く同じ状況になっていると思うんですね。そこで本当に独創性とか発想力が必要だよっていうふうに言われていて、そういう時に本当に役に立つんじゃないのかなと思うのが、アーティストの考え方だったり、アプローチだったりするのではないでしょうか。
よくあのビジネスと芸術は逆なんじゃないかなとか思われる方がいるかもしれませんが、今のビジネスパーソンほど芸術やアートっていうのを知ってほしいと思っています。何でかって言うと、いろんなアイディアとか課題、ミッションっていうのをビジネスの世界において設定するのが必要とされているんですけれども、どれだけ自由な発想、そしてすべてのアイディアはNo bad ideaというふうに思って進めていってほしいと思うので、私のこのお話でお役に立てればいいなと思っています。
では、なぜ私がアーティストになったかっていうお話になるんですが、まず最初、私の原点を振り返っていきたいと思います。小学校の頃はみんな私のことを「変わった子」と言ってました。担任の先生は私のことを「壊れた洗濯機」というふうに言っていて、それは私本人は知らなかったんですが、母が覚えていて、その母があなたそんなこと言われてたけれどって笑いながら話してくれたってことで知ったんですね。そう言うと、なんかあの「壊れた洗濯機」って一見ちょっとネガティブに聞こえるんですが、母は私のいいところをすごくよくわかっているって笑いながら話していて、まあどういうことかというと、スタートボタンを押しても全然スタートしないし、ストップボタン押しても止まらないし、気づいたら勝手に洗濯してて、もの凄いスピードで洗濯し終えていて、勝手に止まってると。要するに扱いづらい子どもであったということですかね。それを母がやっぱりよく見てくれている先生だったという話だったんです。
小学校時代というのは、皆さんこれをお聞きになっている方とたぶん同年代の方もいらっしゃると思うんですけど、みんな同じである、みんなができることをできるっていうことがまあいい生徒の条件だったと思うんですが、私はすべてそれが出来ないダメっ子でした。はい。それでも、いろんなアイディアとか考え方とか意見とか、そういうものをすべて肯定してくれて、そしていろんな文化とか、いろんなその人のバックグラウンドっていうのを存在させてくれるっていうのがアートの世界だったので、自然とそっちのほうが生きやすいなって思ったっていうのがアートに行った、まあ、簡単な理由です。
私、ヨーロッパに留学していた時期があったんですが、いきなりアートをやりたくて留学したわけではないんですね。イギリスで苦手な英語を勉強していたんですが、たまたま授業中に窓の外、授業ちゃんと聞いて無い証拠なんですけれど……見ると、隣の美大に面白そうな人が出入りしているのを見て、その時私は、20年英語をがっつり勉強しても、20歳のイギリス人には勝てるわけがないという謎の気づきをしてしまいまして、これ以上語学を突き詰めてもあんまりおもしろいことにならない気がするぞと気付いて、なんか面白そうな人たちが出入りしているあの校舎は何だろうと思って、突然アポなしで門を叩くんですね。なので、全くアートの勉強もせず、計画性もなく美大に入るきっかけが、ただ窓の外を授業中に見ていたからということがきっかけでした。
そういった中でちょうどアルス・エレクトロニカ(Ars Electronica)というオーストリアにあるメディアアート最大の祭典、今もやってます……があるんですが、そこでちょうどジョー・デイヴィス(Joe Davis)さんというアメリカのアーティストがいらっしゃって、彼はすごく面白い人で、MITとハーバードを唯一行き来できるアーティスト兼サイエンティストという方なんです。その人の作品を見た、そして衝撃を受けてしまったというのが、私の最初のバイオテクノロジーとアートが融合した作品を初めて観たタイミングでした。そこで、セントマーチンでファインアートやってるんですけど、面白いからそっちに行きたいんですが、全くバイオテクノロジーの知識が無いために、いきなりそこに行くことはできないんですね。その興味を持ったままRCAに向かうことになるんです。
RCAというのは、Royal College of Art、英国王立美術大学という、イギリスにある王立の美術の大学院です。卒業生ではジェームズ・ダイソン( James Dyson)さんですね。あの掃除機で有名なダイソンさんがいらっしゃいます。そのRCAに向ったときに、ちょうどそれもきっかけでですね、普通にファインアートのコースに入るかと思いきや、バイト中で、IDEOっていう会社があるんです、デザイン会社が。そこのロンドン支社の方がRCAの先生をやっていて、IDEOの方とお仕事するきっかけがあり、そこで君みたいな子はRCAのコンピュータリレイテッドデザイン、CRDっていうCADみたいな名前なんですが、何をやってるかよくわかんないコース名を言われまして、面白いから見に行ってみたらって。その日に見に行って、展覧会見て「私の居場所はここかもしれない」って勝手に思い込みまして。デザインも何も知らないのに受験をして、たまたま受かっちゃったんですね、まぐれで。で、入ることになりました。
RCAのコンピュータリレイテッドデザインというコースに入ったっていうのがまずきっかけなんですが、コンピュータリレイテッドデザインっていうのは80年代にできたコースなんです。聞いた話によると1番最初にコンピューターとデザインっていうのを融合させたコースっていうところで、テクノロジーがどう社会に影響を与え、そして私たちの日常がどうテクノロジーを作り上げていくのかっていうことを研究するコースだったんですね。もうウェブ作品とかで、メディアアートが好きで、だいぶテクノロジーオタクになっていた私は、このテクノロジーがどう社会に影響を起こすのか、っていうテーマにすごくワクワクしてしまって。で、Science, Technology and Societyっていう3つの軸で研究をしたいと思ったっていうのがまずきっかけです。そこではテーマを持って、これからデザイナーがテクノロジーが発展したところで、どういったプロダクトやサービスができるのかっていうのを想像しなさいという課題だったり、あとはBody as Shopという、身体をお店と見立てて、お店をデザインするという、今で言うウェアラブルに近いんですかね、とかですね。あとはProve Projectっていう、これ結構RCAの伝統の研究なんですけど、火星に探査機(Prove)を送り込んで、でそこから持ってきたもので生命っているんだっけ?とか、そういうことをやるProveなんですけど、知らない人にデザインセットを送って、その知らない人がそのセットをごちゃごちゃやって帰ってきた。それから、その人たちの日常を想定しましょうというデザインの課題でした。
2001年の、大学院なんで2年間なんですが、1年の終りごろの課題で「バイオテクノロジーが発展したらどういったデザインやサービスプロダクトが生まれるか」という課題において、バイオプレゼンスというプロジェクトを提案しました。その4週間の課題の中で、人間の遺伝子を木の遺伝子の中に保存をして、その木は生きた記念樹というお墓の代わりになって、これからなくなってしまう方、亡くなった方の遺伝子情報を持つ木を作るというサービスで、その時点で既に私ビジネス化しようとしてまして、会社名もバイオプレゼンス(Bioprerence)、こういう風なビジネスプランですってプレゼンをしたんです。それを卒業の作品になったんですが、発表したらほぼバッシングでしかないみたいなのがきまして。ただその中でも、「いや、私死んだら絶対に木の下じゃなくて、木の中に入りたい」と言うおばあちゃんがわざわざ学校に来てくれたりとか、あとは「2人で1本の木にさせてもらえないか?」って言うことを、わざわざ展覧会に聞きに来るカップルの方とかもいたりして、その人たちの想像力すごいなあって、作ったくせに見ている人たちの想像力の豊かさに驚いて、この人たちのために何としてでも実現したいと思ったのがバイオプレゼンスというプロジェクトになったんです。
「壊れた洗濯機」と呼ばれていたり、あとまあデザインのデも知らないのに、いきなり大学院からデザインやってしまったりとか、アートに足を踏み入れたという理由はこのような背景があったんですね。それが私の原点となっていました。こういった体験を得た私がどのように発想力を育ててきたのか、実体験を元に具体的な話に踏み込んでいきます。次回のテーマは自分の癖を知るです。ではまたお会いしましょう。ここまでのお相手は福原志保でした。
(以上書き起こし終了)
「発想力の育て方」全6話 60min
1. 発想力はアーティストの特権ではない
2. 自分に嘘をつかない
3. 常識への問いかけ
4. 発想力だけでは足りない
5. 発想を形にしていく方法
6. 日頃から発想力を鍛える
福原志保
バイオアーティスト、研究者、開発者。2003年ロイヤル・カレッジ・オブ・アート修了、近年では、金沢21世紀美術館でバーチャルユーテューバー初音ミクの心臓を再現するプロジェクト『Ghost in the Cell:細胞の中の幽霊』が注目を集める。