【書き起こし】玉樹真一郎さん「ゲームから考える体験デザイン」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「そもそも体験とは何か」を書き起こしで紹介。ゲームプランナーの玉樹真一郎さんが、複数のヒットゲームを事例に、「心を動かす体験」はどのようにデザインされたのかを紐解いていきます。

(オープニングジングル)
玉樹:

皆さんはじめまして玉城真一郎と申します。今回よりお送りする「ゲームから考える体験デザイン」では、ヒットしたゲームを事例に心を動かす体験はどのようにデザインされたのかを紐解いていきます。たくさんのゲームを事例として取り上げ考察していきますが、その考察は私の個人的な見解であり、ゲームメーカーさんの公式見解ではない点にご注意ください。

初回なので私の自己紹介から参ります。改めまして玉樹真一郎と申します。わたくし大学院を卒業後、プログラマーとして任天堂に就職しました。その後プランナーに転身しまして、全世界で1億台を売り上げることになりましたWiiというゲーム機の企画担当としてお仕事をしておりました。ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークサービス、色々な企画をさせて頂いて、そこで学んだことを生かしたいなと思いまして、2010年に任天堂を退社しました。その後、青森県の八戸市という生まれ故郷にUターンをしまして「わかる事務所」という名前で独立起業いたしました。今、主な活動としましてはその「わかる事務所」名義で様々な組織さんなどにお声かけいただいて、企画を一緒に考えたりだとか、NPOで様々な事業をさせていただいたり、また八戸市にあります八戸学院大学という大学で講義をしたりしております。

そのような中で、常に誰かとコミュニケーションをしますね。「何かやりたいことがあるんだけれども、どうもうまく伝えられないんだけど、どうすればいいかな?」って相談されることもあれば、私自身が全く同じ悩みを持つこともあります。そんなときにふと思うのが、ゲームってそういうコミュニケーションをうまくやってるなという点なんですね。という経験を踏まえて、ゲームって一体何をデザインしてるんだろうということを「体験デザイン」という名前で整理をして、それをお話したいと思っております。


そもそも体験とは何か?

今回なんですが、まず体験とはそもそもなんでしょうか? というところから話をしてみたいと思います。まず、なぜ体験がそんなに重要なんでしょうね? まあ、最近よくありますね。立派なハードウェア、新しい商品プロダクトを作った、でもなんか売れない、おかしいなあ、いいものを作ったのに、なぜ売れないのかな? なんて言うことが市場でよく見受けられます。まあ、商売というとちょっと遠いんですが、もう少し手近なところでいきますと、先ほども申し上げた通りで、どうして話をわかってもらえないのかななんていう経験、皆さんないでしょうか? 言ってることは正しいんです。ですが、何故か伝わらない。不思議なものですね。ちゃんとしたものを作っていても、ちゃんとしたことを考えて伝えていても、それでもどうしても伝わらない。心が動かないんですね。言われてもやる気にならない。そういう意味では、昔子供の頃、親に「勉強しなさい」「片付けなさい」と言われても、ちっとも心が動かなかったですよね。だって「勉強しなさい」って言われて「はい、勉強したくなりました」って思ったことありますかっていうと無いんですよ。やる気にならない。なぜか、上手くコミュニケーションが出来ていないですね。

一方で逆のこともあったはずです。皆さんが誰かの心を動かしたことだってあるはず。 例えば「どっか遊びに行こうぜ」って誰か誘って、その友達が「うん行く」って一緒に遊びに行く。その友達は時間やお金という労力を支払っています。それだけの判断をするってなかなか難しいですよね。でも、その判断をするだけの心の動かし方ができたということになります。もう少し近い例ですと、自分が頼んだ料理をお友達が真似するってことはありませんか? 「僕、天丼にしようかな天丼!」って言ったら、「あ、私もそれ!」なんて言われたりしますね。あれです。

特に命令はしてないんですが、なんか誰かの心を動かすことができてしまいました。はい、同じようなことがお仕事でもできればいいんですが、それでも実際お仕事でやったことに誰かがお金を払ってくれる、買ってくれるというとすごく嬉しいですよね。そういう意味では、誰もが人の心を動かす体験を作り出すことはできるはずなんです。ところが、その部分、どうすればいいのかなという具体的なお話になってくると難しい。なので今回のお話では、まさに「体験デザイン」、どうすれば伝わるだろうか、どうすれば人の心を動かせるだろうか、ということを考えていきたいと思っています。

体験という言葉、これ体(からだ)という漢字が入っています。なので体験という言葉を聞いたときに、何か体を動かさなきゃいけないのかしら、と勘違いされている方がいるんですが、これ、実際のところ体が動かなくても心さえ動けば立派な体験です。例えばスマホをいじっていて、SNSを見ていて、「うわぁ、凄いなあこの人」って感動したり、なんかちょっと悲しいものを見て、自分まで心が傾いてしまったり。ありますよね、そんな時って心はものすごく動いていますが、体は何も動いてないんですね。せいぜい指先がちょっとツンツンと動いているだけ。心さえ動けば、それは立派な体験です。


心が動くとは?

ここで1つ思い浮かべていただきたいんです。ちょっと実験と行きましょう。ピースサインを作れますか? 頭の中で作っても良いし、実際に作っていただいても結構です。人差し指と中指が尖ってプント先の方を向いていますね。その尖った先を、みなさんの鼻の下に持ってきていただけないでしょうか? 「いや、今電車の中だから無理だよ」という方もいらっしゃいますよね。その方は、頭の中でリアルに想像していただくだけで結構です。2本の指を鼻の下の方に近づけていくことを想像する。うん、なんというんでしょうかね、なんか妙に、もう鼻の穴のあたりがムズムズムズムズしてくると言いますか、 なんでしょう? 本当に痒くなった方もいらっしゃるんじゃないですかね。これ不思議なもんで、何もしてないんですけど心は勝手に動いてしまうんですね。一体、今何が起きたんでしょう? 指を近づけただけなのに心が動いてしまった。何が大事なのか。心が動くとは具体的にどういうことなのか。まさにこの部分を紐解いていきたいなという話なんですね。

そう考えると、ゲームというのは非常によくできています。なんかわからないけれども、ついやってしまうんですよね。ファミリーコンピュータというゲーム機が昔ありました。世界中で1番最初にヒットしたゲーム機と言っても過言ではないんじゃないかと思います。そのゲーム機のヒットの立役者は、「スーパーマリオブラザーズ」というゲームです。ありていに言いますと「20代の配管工の男性が、巨大化したカメなどをやっつけるゲームです」。こう言ってしまうと、非常に荒唐無稽に聞こえなくもない。決して私はゲームを貶めるつもりは一切ございません。これだけゲームが好きで、任天堂に勤めたぐらいですからね。なんですが、あえて言葉にしてみると不思議と荒唐無稽なところがあります。なのに熱中してしまうんですよね? 一体スーパーマリオというゲームは、我にどんな体験をさせているんでしょうか? そんなことを考えてみたいと思います。

そこで1つ質問をさせてください。「スーパーマリオブラザーズ」というゲーム、もし遊ばれたことのない方はインターネットで検索していただくと簡単に動画などをご覧いただけるかと思います。このゲーム、プレイヤーは何をすれば勝ちでしょうか? 「うん、何をすれば勝ちかって、ゲームなんだから楽しめば勝ちなんじゃないの?」。まあ、確かにそうなんですが、ゲームのルールですね。こういうことをすると、このゲームは勝ちなんですよ、ということ。このゲームは何をすれば勝ちなのか、ちょっと考えてみていただければと思います。

答えは次回お話させていただくということで、ちょっと意地悪なんですが第2回に続きたいと思います。以上、玉城真一郎でした。

(以上書き起こし終了)

「ゲームから考える体験デザイン」を語る 全6話 60min


1. そもそも体験とは何か
2. 直感のデザイン
3. 驚きのデザイン
4. 物語のデザイン
5. 面白いとはどいうことか
6. 体験デザインをどう活かすか

玉樹真一郎
ゲームプランナー。
わかる事務所代表。『「ついやってしまう」体験のつくり方』の著者。東京工業大学・北陸先端科学技術大学院大学卒。プログラマーとして任天堂に就職後、プランナーに転身。全世界で1億台を売り上げた「Wii」の企画担当として、最も初期のコンセプトワークから、ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークサービスの企画・開発すべてに横断的に関わり「Wiiのプレゼンを最も数多くした男」と呼ばれる。 2010年任天堂を退社。青森県八戸市にUターンして、「わかる事務所」を設立。コンサルティング、サービスやアプリケーションの開発、講演やセミナー等を行いながら、人材育成・地域活性化にも取り組んでいる。



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