【書き起こし】 山口周さん『アート思考』を語る

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、1エピソードを完全書き起こしで紹介。 山口周さんご本人が、ビジネスにおける「アート思考」の重要性を解説しつつ、ビジネスパーソンとしてどのようにアート思考を鍛えていけばいいか説明します。

(オープニングジングル)

山口:

皆さんはじめまして著作家の山口周です。今回よりお送りするアート志向では、今ビジネスパーソンに必要な自己の美意識とアート思考をどのように鍛えればよいか、ということについてお話しして行きたいと思います。

初回なので私の自己紹介から参ります。肩書きは今、独立研究者、著作家、あるいはパブリックスピーカーと名乗ることが多いんですが、まあ色々やってます。企業アドバイザーをやったりとか、あとパブリックな仕事で言うとダボス会議のメンバーですとか、上場企業の社外取締役なんかもやっております。私のキャリアは非常に単純で、20代は広告会社で、30代は外資系の戦略コンサルティングの会社で、40代はアメリカの組織開発のコンサルティング会社で人材育成とか組織開発の仕事をずっとやってきたということです。

学生時代は主に音楽の研究をずっとやっていてですね、それで音楽に携わる仕事やりたいなと思っていたんですが、まあビジネスにも興味があったので、音楽とか芸術とか、まあ創造といった領域と、ビジネスでちゃんとお金を稼ぐっていった領域の、その交わるところですね。僕は「交差点、交差点」ということをよく言ってるんですけども、自分の得意な交差点というのはその交差点だろうなと。ビジネスと文化の創造性とか、芸術といったものとビジネスの交わるところ。そういったところで仕事をやれたらいいなという風に思っていて色々探してみると、どうも当時は広告代理店というのが良さそうだということでそこを選んだところ、どんどん軸足がビジネスのほうによっていって、広告代理店のほうから戦略コンサルティングの会社。そこから組織コンサルティングの会社ということでやっていたんですけども、だんだんそういう仕事をやってくうちに企業の競争力っていうのは、戦略そのものよりもその中で働いている人たちの個性とか、創造力みたいなところが大事なんじゃないかってことに、そうですね、40代の半ばぐらいになって気付き始めた。そうするともともとやっていた創造性の研究とか、芸術の研究みたいなところっていうのにもう1回立ち返るっていうか、ぐるっと180°、1回転して戻ってきたということになります。


アート思考のエッセンスとは?

これからの全6回を通じてですね、アート思考ということについて、お話をしていきたいと思うんですけれども、アート思考っていうのは最近いろんなところで使われていてですね、かなり定義が拡散している状況にあるように思うんですけれども、アート思考の最大のポイントっていうのは、これもあくまで僕の考え方なんですけれども、正解のないところにあるべき姿、ありたい姿っていうものをポンと自分なりに描くっていうものの考え方に、そのエッセンスがあると思うんですね。通常ビジネスにおける問題解決の考え方っていうのは、あるべき姿というのはだいたい外在的に決まってるわけですね。あるいは物差しが決まってるっていう方でも良いと思いますけれども。

例えば、株価がこれぐらいとか、PBR、これはまあファイナンスの用語ですけども、例えばPBRがこれぐらいだとか、内部収益率がこれぐらいとか、その会社の状態を測るいろんな物差しがあって、その物差しをこれぐらいがよかろうということでターゲットを決めていて、そこにどうやったら追いつけるかということを考えるんですけども、もとからある物差しとか、あるいは一般的に世の中で言われている良い状態というものを正解として、じゃあその正解の状態から今の状態を差し引きするとギャップがあるのでそれを埋めていきましょうという、これ典型的な問題解決、Problem Solvingの考え方なんですけども、アート思考っていうのはそういうものの考え方しないんですね。つまり外在的に何か答えがあるとか、みんなが良いと思っている状態とか、あるいはその物差しっていうものを当てて、じゃあそこを目指そうということじゃなくて、ポッと自分なりにこういう状態がありたい姿じゃないか、こういう世の中がいい世の中じゃないかっていうことを描いて、じゃあそこをどうやったら目指せるかってことを考える。

で、何がアートなのかっていうと、そのこういう状態が良い状態じゃないかとか、こういう社会が良い社会じゃないかということをトップダウンでポンと思いつく時に、そこにはエビデンスがないんですね。もうロジックがないわけです。根拠がないわけですね。なぜあなたはそう思うのかって言われると、だってそれが良い社会じゃないとか、だってそれがカッコいいじゃないとか、だってそれが素敵じゃない、っていうことで、その素敵さとか良さとか豊かさというものに対するエビデンスとか根拠っていうのはないわけですね。もう本当にある日ふわっと自分はそういうことを考えました。で、そこはアーティストが作品の構想をする時と思考のプロセスとして非常に似てるわけですね。だからアート思考だということで、このアート志向に対比される考え方としては、何か外在的にも、外側から正解とかあるべき姿というものが与えられて、それに対してどうやったらおっつけることができるかと、それを実現することができるかっていうその問題解決型思考というものが、非常に対比される考え方かな、というふうに思います。

なぜ今アート思考が求められているか?

なぜじゃそういうアート思考のような考え方が求められてるかって言うとですね、これ外在的に与えられる物差しっていうのが、もうなかなか伸ばせない状態になってるんですね。

例えば1番わかりやすい話がGDPです。これまあ、経済とかね、世の中の景気の状況を図るの物差しとして世界で共通に使われて、首相は変わっちゃいましたけども安倍さんの時代に言われたアベノミックスっていうのも、上手くいってるかいってないかというのは何で決めているかというとGDPで測ってるわけですね。じゃあこのGDPが今どういう状態なのかって言うと、日本は皆さんもご存じのとおり、ここ20年ほとんど伸びてないわけです。50年前はどれくらい伸びてたかというと、毎年2桁近い伸びをしてたわけですね。毎年毎年8%と9%とか伸びてたわけです。最近よく言われるのは日本だけがそういう状況で、日本ダメだダメだみたいなこと言われているんですけども、これ誤解なんですね。先進国の、いわゆる先進7カ国のGDPをとってみると、平均値で見てみると2010年代の成長率って、もう先進7カ国の平均値で1%台なんです。もうほとんど成長していません。これ平均値で取ってみると60年代がだいたい6%弱ぐらいですから、もう日本だけじゃなくて先進国っていうのはもう押し並べて成長しなくなっているわけですね。

これ何言ってるかというと、あの高原状態に達しちゃってるっていうことですね。GDPっていうのは文明化の度合いを測る指標なわけですけれども、便利で安全で快適に世の中をしていくということをやったわけですね、文明化っていうのは。それがどれぐらい進んでるかっていうのが、GDPっていう物差しで計られたんですけれども、これが伸びなくなっちゃった。伸びなくなっちゃったところ、飽和している状態の時に伸ばせ伸ばせって言われると、これは非常に辛い状況になるわけですよね。じゃあそのGDPという数字自体はもう高原状態に達したって言った時に、じゃあ次のあるべき姿とか、次のありたい姿とか、次の課題ってなんですか? ってなったら、これ新たに作らないといけないですね。課題とかビジョン。そうなってくると、今まで使われてた物差しってものは役に立たなくなるので、その先ほど言ったアート思考、つまり次の世の中の状態ってどういう世の中がいい世の中なのかと。GDPはもう伸びなくなってるわけですからね。むしろそれ無理矢理伸ばそうとすると、環境とか資源とか、あるいは格差みたいな問題っていうのがどんどん大きくなってちゃうと言うときに、じゃあその次の世の中とか、人々の暮らしの豊かさみたいなものっていうのはどう考えていくかっていうのは、極めてアーティスティックなものの考え方が必要になるということですね。

ここまでですね、アート思考がなぜ今重要視されているのかということについてお話してきましたけれども、じゃあ具体的にどうやってアート思考ってものを考えていくかということは、次回からレクチャーしていきたいと思います。ではまたお会いしましょう。ここまでの相手は山口周でした。

(以上、書き起こし終了)

「アート思考」全6話 60min

1.アート思考とは

2. ものが買われない時代の到来

3. 昭和的な価値観の転換

4. これからの時代、人間に何が求められるのか

5. 客観的な外部のモノサシから主観的な内部のモノサシへ

6. どのようにアート思考を鍛えるのか


山口周

著作家、独立研究家、『世界のエリートはなぜ美意識を鍛えるのか』の著者

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