【書き起こし】関屋裕希さん「不機嫌の正体」

プロから直接学べる音声メディアVOOX。10分×全6回のコースのうちの、第1話「 不機嫌とは」を書き起こしで紹介。心理学博士で職場のメンタルヘルスを専門とする関屋裕希さんが、「不機嫌」になる心理を解明しつつ、どうすれば不機嫌と上手に付き合えるかについて考察します。

(オープニングジングル)

関屋:

皆さんはじめまして。臨床心理士の関屋裕希です。今回よりお送りする「不機嫌の正体」では、不機嫌になる心理を解明しつつ、どうすれば不機嫌と上手に付き合えるかについて考察します。

初回なので私の自己紹介からスタートします。現在の肩書きや活動内容は、心理学博士、臨床心理士、公認心理師、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野で客員研究員をしています。心理学をバックグラウンドに、主に職場のメンタルヘルスの領域で研究や執筆、講演活動をしています。大学院の5年間は、怒りの感情の研究をしていたこともあり、感情との付き合い方というのはずっと興味を持ち続けているテーマです。特に怒りや不安などのネガティブな感情を、ただネガティブなものと決めつけず、私たちにとって必要なものだという前提で、どうすれば上手く付き合えるかということを研究しています。また大学院では、ポジティブ心理学の研究室に在籍していたので、どんな現象に対しても、どんな時でも、そのもののいい所って無いのだろうか、という問いを持つようにしています。

プライベートでは昨年出産をして、9ヶ月の娘を育てながら仕事をする毎日です。女性特有のホルモンバランスの変化や、慢性的な睡眠不足、なかなか自分のペースでは進まない日々を経験しているので、今回の不機嫌というテーマは自分ごととしても大事なテーマだと思っています。今回は「不機嫌の正体」と題して全6回お送りしますが、そもそも時々私たちを襲ってくる不機嫌とはなんでしょうか? まずは身の回りの例から考えてみたいのですが、私たちは自分が不機嫌になっている、ということを自覚するのはなかなか難しいものなので、まずは観察しやすい周囲の事例から考えてみたいと思います。


不機嫌とはどんな時か?


私たちが日常で不機嫌という現象を目にするのはどんな時かというと、例えば職場で同僚に話しかけたらそっけない返事が返ってきたり、仏頂面でパソコンから顔を上げないまま返事をされたり、一緒に住んでいる家族がドアを乱暴に閉めたり、声を荒げたり、逆にいつもより口数が少ない時。そんな様子を目にすると、「あ、もしかして機嫌が悪いのかな?」と思うのです。どうでしょうか、皆さんの周りにもあの人機嫌が悪いことが多いな、という人や、機嫌が悪い人が近くにいる時、ご自身がどんな感じを出されるか、頭に思い浮かべられるのではないでしょうか。この不機嫌というのは、イライラや不満が漏れ出ている状態のこと、と捉えていただくとわかりやすいと思います。自分の思いどうりにいかなかったり、体調が悪かったり、こうなって欲しい、こうあって欲しいという要求が満たされないと、舌打ちやため息、無表情などの態度や行動に出てしまうのです。

原因はたくさんあるのですが、共通しているのは不快な状態である、ということ。 睡眠不足で眠い、疲れがたまっている、暑い寒い湿度が高い、お腹が空いている、周りでうるさい音がする、あとは自分の思った通りに事が進まないというのも含まれます。ここで自分が機嫌が悪いのはどんな時かなと自分のことを振り返ってみると、ランチを食べそこなったまま仕事を続けているときには、相手の電話対応にいつもよりイライラしやすくなっていたり、疲れが溜まっている時には普段だったら聞き流せることが聞き流せなくなっていたり、思うように仕事が進んでない時には、家に帰った後、家族に八つ当たりをしてしまったり、確かにそういえばと思い当たることがあるものです。

私自身も出産して半年ぐらいたった頃、夜中に娘が起きるのは一回になって、自分の中ではそれまでに比べるとずいぶん楽になったな、という認識だったのですが、買い物の列に並んでいてもいつもより待てない自分がいたり、夫に対して八つ当たりのように言葉がきつくなったり、今冷静になって振り返ってみると、寝られるようになったように見えて、どこかで娘の様子が気になってしっかり睡眠が取れていなかったのだなあ、っていうふうに思います。こんなふうに冷静になって振り返ると、ああ、そういえばあの時機嫌が悪くなっていたかも、と思えるのですが、この不機嫌な状態というのは、その時に自覚するのは難しいということが多いものです。


不機嫌のもたらす影響


自覚するのが難しいということは、自分でコントロールするのも難しいということです。そもそもコントロールする力が弱くなっているから、イライラや不満が漏れ出ているとも言えます。では、この不機嫌をそのままにしておいていいかというと、そのままにしておくと少し厄介なことになってきます。やっぱり不機嫌な人と一緒にいたいとか、近くにいようとはならないので、職場などでは、あの人はいつも機嫌が悪いから関わらないようにしようとか、今日はちょっと機嫌が悪そうだから話しかけるのを止めておこうとか、関係を遠ざけることになって人間関係に影響が出てきてしまいます。プライベートでも不機嫌な状態のままで家族や友人と話をすると、小さなことで言い争いになってしまったり、まあそんなことを続けているうちに本当に話したいこと、本当に話題にしたいことっていうのが話せなくなったりしてしまいます。不機嫌を放っておくと、私たちがこんなふうに生活したいとか、まあこんなふうに近い人と関係を築きたいっていうところから、逆に遠ざかってしまって、そのことがまた不満につながって、更なる不機嫌を呼ぶ。そんな悪循環にはまってしまうことにもなります。

私たちが、自分が生きたい人生を手にいれていくためにも、不機嫌と上手に付き合っていくすべを身に付けておきたいものです。今回から全6回で「不機嫌の正体とは」というテーマでお送りして行きますが、第2回は人はなぜ不機嫌になるのか? 不機嫌になる理由について解説をしたいと思います。第3回は不機嫌の代表的な3つのパターンを紹介して、不機嫌について自分が今どのパターンに陥っているのかな、という理解に繋げていただきたいと思っています。第4回は不機嫌と自我消耗現象ということで、少し聞きなれない用語かなって思うんですけれども、自我消耗現象という心理学の現象に少し着目して、不機嫌について少し多角的な側面から捉えていただけるようになっていきたいと思います。そして第5回では、どのように不機嫌と付き合えばいいのか、自分が不機嫌になってしまった時にその不機嫌とどんなふうに付き合っていいのか、具体的な付き合い方について紹介して行きます。そして最後、第6回では、関係性の中で不機嫌をどう扱うか? 不機嫌というのはやはり漏れ出てしまうと周りの人から「あの人不機嫌だな」っていうふうに思われてしまうので、その身近な人との関係の中での不機嫌の扱い方というのも大事なので、最後の回は、関係性の中で不機嫌をどう扱うか、これをテーマにしていきたいと思います。以上、関屋裕希でした。
(以上書き起こし終了)

「不機嫌の正体」  全6話 60min
1. 不機嫌とは
2. 人はなぜ不機嫌になるのか
3. 不機嫌の3つのパターン
4. 不機嫌と自我消耗仮説
5. どのように不機嫌と付き合えばいいか
6. 関係性の中で不機嫌をどう扱うか

関屋裕希
東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。早稲田大学第一文学部心理学専修卒業後、筑波大学大学院人間総合科学研究科にて博士号(心理学)取得。大学院では怒り感情の研究を行う。2012年より現所属に特任研究員として勤務。専門は職場のメンタルヘルスで、認知行動的アプローチやポジティブ心理学に基づくストレスマネジメントプログラムの開発に従事。企業向けにメンタルヘルス対策の設計支援・講演・執筆なども行う。

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